ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

人間、やめますか?

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 覚醒剤などの違法薬物の使用で逮捕される有名芸能人のニュースが絶えない。

 こう書き始めると、違法薬物の使用を撲滅しよう!と続くと読者は思うだろう。精神科医なら当然でしょ、と。だが、違うのだ。政治家の不祥事の度に有名人が逮捕されるのはなぜか、と書こうか? 本当はそれも書きたいが、違う。

 人類は薬物の使用と共に進化してきた。アルコールも薬物である。カフェインはなんと「覚醒」作用が主である。「覚醒剤やめますか、人間やめますか」という強烈な標語があるが、本当にそうならば、人類は今頃絶滅している。意外にも、事件や事故にいちばん結びつきやすい薬物はアルコールだ。覚醒剤などの違法使用は「被害者のない犯罪」と言われ、法律自体が疑問に付されることもある。

 あたかも悪質で凶悪な犯罪のように言われる「薬物中毒」「ヤク中」は、物質依存症と呼ばれる「病気」である。まったく病気がない健全そのものの人がいないように、依存症も多かれ少なかれすべての人が持っている。そのバランスの上に生きているのだ。病気や依存がゼロの人なんて、どこに魅力があるのだろう。

 当然、誰もがバランスを崩すことがある。そのきっかけでもっとも多いのは、孤独な人間関係だという。だとしたら、薬をやめられないから病気であると言いながら、薬をやめることが治療だというおかしな話ではなく、孤独な人間関係を変えることが治療だ。多くの海外の依存症治療はすでにそうなっている。法律の厳罰化で病気は防げない。ましてや世間を挙げて糾弾するのは逆効果だ。

 日本には「七転び八起き」という美しいことわざがある。しかし、誰でも一度つまずくと立ち直りにくい今の社会の仕組みが、依存症の人にそれを許さない。一度転んだら、人間をやめろと言う。それだけ社会が不寛容になっているのだ。なんと生きづらい。

 ならばこう言おう。不寛容やめますか、それとも、人間やめますか?



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。