ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

一つのチームになる

関西大教授 所 めぐみ


 One team(ワンチーム)という言葉が今年の流行語として選ばれた。担当するゼミの3年生もようやくひとつのチームになってきた。

 「じゃあ顔を伏せて、手を挙げてください」「A案がいい人?」

 思わず「エッ?」と声を出しそうになったことがあった。フィールドワークでの活動の計画をしていた時、誰も躊躇(ちゅうちょ)することなく顔を伏せ、2つの案のどちらかに手を挙げている。司会者以外は誰がどちらの案に手を挙げたかわからないまま、自分たちがこれから行う活動が多数決で決められた。

 正直私は動揺したのだと思う。こんなやり方で決めていいの? こんなふうにこれまでもしてきたの? 学生さんたちに任せているのだからと、尋ねたい思いをぐっとこらえた。司会の学生さんに対してはもちろん、こうした決め方を受け入れている様子の他の学生さんたちに対しても聞きたかった。何で自分の意見を隠さなあかんの? これはどうしたものかと思った。でもまずは見守ろう。

 見えない(見ない)多数決によって決めた案での話し合いは、すんなり進んでいない。活動を通じて大切にしたいことやねらい、一人一人の意見を目の前の白板に書いて進めることだけは提案した。すぐに書き手が出てきてくれた。話し合いは進んだがもう一度案を考え直すところにもどった。

 数日後、司会役をしてくれた学生さんと話した。みなそれぞれ考えをもっていることがわかったから、もう少し話しをしてから決めてもよかったかもね。そう言いつつ、進め方以上の問題に私は気づいていた。まだ、安心して話し合える関係性ができていないのだ。チームづくりの問題だ。私は反省した。初心、基本にもどった。

 あれから数カ月。3年生は、自分たちの活動を無事やりとげ、自分たちの活動のふりかえりをして、自分たちで記録にまとめ、関わった小学生たちに伝えてあげたいメッセージのボードを今、膝をつきあわせて作成している。



ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。