ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

多職種連携再考

もみじケ丘病院院長、精神科医 芝伸太郎



 心の病でハンデを背負っている患者さんやそのご家族にさまざまな支援を行うために、精神科医・看護師・心理士・薬剤師・精神保健福祉士・作業療法士・ケアマネジャー・ヘルパー・行政職員等の多職種連携が必要なことは専門家でなくともわかります。その自明な事柄が昨今やたら声高に叫ばれるようになりました。

 医療福祉機関や事業所がたいてい掲げている「我々は多職種連携に力を入れております」等のうたい文句や多職種連携をテーマとして開催される講演会の多さにその熱気が表れています。

 医療や介護の在宅シフトに伴い、ケアマネ等の新たな職種が創設され訪問看護やヘルパー派遣の需要が高まったのが背景にあることは間違いないでしょう。多職種連携なくしてこれからの医療介護が成り立たないのは事実です。ただ私が違和感を禁じ得ないのは、精神医学の学会でさえその類の演題がさも新しい発見であるかのごとく発表され続けているという過剰性、つまり多職種連携を連呼する声が不自然なほどに大きすぎることなのです。

 長年にわたり医療福祉に関わってきたベテラン専門家たちの「多職種連携は以前はもっと緻密に行われていたのに、その重要性が強調されるようになった頃から逆に中身が薄くなったような気がする」という認識は多分正鵠(せいこく)を射ています。

 識者の多くは「トランプ大統領が『米国に差別がない』と強弁するのは、米国に歴然たる差別が存在するからだ」と看破しています。実際に差別がないのならそれをことさら言う必要はない、このロジックは多職種連携にも該当するという見方はうがちすぎでしょうか。

 全職種が一堂に会しさえすれば「多職種連携をした気分」になってしまうのではないか、多視点による違った専門的見解のぶつけ合いにこそ意味があるのに全職種が簡単に合意形成できる程度の浅い議論になってはいないか、支援の実効性を担保するために多職種連携のあり方を一度見直すべきなのかもしれません。

しば・しんたろう氏
京都大学医学部卒。兵庫県生まれ。
1991年もみじケ丘病院。2018年より現職。専門は気分障害の精神病理学。