ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

本当に大切な事

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 皆さんは、「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する「ねずみ男」をご存じでしょう。ねずみ男は権力を持ったお金持ちが現れると、平気で仲間を裏切り、損得勘定の中で生きているように見えます。

 さて、あなたは有名になってお金持ちになれば幸せになれると思いますか? お金=幸せと考えてしまうというのは、お金に執着しているということです。

 先日、友人から「知人に夕食をごちそうしたのに、何の見返りも無かった」と愚痴のメールがきました。損得の関係だけに重きを置くと、自分の心が疲れます。改めて人間にとって大切なこととは何かを考えさせられたのです。

 「それ、人間の浮生(ふしょう)なる相をつらつら観ずるに、おおよそはかなきものは、この世の始中終(しちゅうじゅう)、まぼろしのごとくなる一期なり」(蓮如上人)

 名誉やお金を信じて生きたいと思っても、それらに裏切られるとどうなるのか。いざ自分が挫折すると人や社会を恨むことしかできなくなるのではないでしょうか。その時が、私たちにとって一番苦しい時なのです。

 蓮如さんは、人間は海に浮いているようなものだと例えられています。安定してないものを追い求めている、それが「浮生なる相」。大切なのは「後生こそが本当のすみか」だとおっしゃっています。それは先人から受け継いだ言葉、習慣、文化、作法をこの私が受け継ぎ、後の人に伝えていく。この私も置かれた場所で堂々と生き切っていくということなのです。お金は執着するのではなく、大切にするものなのでしょう。それを世の中に生かしていけるのか? 問われます。

 作者の水木しげるさんはねずみ男に自分の姿を代弁させたと言われています。お金や名誉にすがってみたけど、それは自分の不安を穴埋めしているものにすぎなかったことを痛感されたのでしょう。

 今年は、ねずみ年。ねずみ男という妖怪から私の人生を振り返り、感じ取っていきたいですね。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。