ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

生活保護制度の後退相次ぐ

弁護士 尾藤 廣喜





 国による生活保護制度の締め付けが続いている。

 2004年から06年にかけての老齢加算の廃止、13年から15年にかけて、平均6・5%、最大10%の生活扶助基準引き下げ、13年の期末一時扶助の引き下げ、13年の住宅扶助と冬季加算の引き下げ、18年から3年間にわたっての生活扶助基準のさらなる引き下げである。

 また、13年に続いて、18年には、保護費の返還請求権の強化、医療扶助での後発(ジェネリック)医薬品の使用の厳格化などの法「改正」が行われた。このように、制度の利用制限、引き下げが狙い撃ちで行われている。

 そのうえ、昨年12月の閣議決定で、生活保護ケースワーク業務を外部委託する方向が決定された。もともと、ケースワークは、人間の生死を左右しかねない、また、個人の情報を預かるデリケートなものであり、制度発足以来、権限と責任があり、専門性のある公務員が行うこととされてきた。これを専門性、継続性、機密保持のいずれにも疑問がある民間業者に「丸投げ」することでは、ケースワークの実をあげることは不可能だ。

 しかも、厚労省は、これに追い打ちをかけるように、精神保健福祉士の養成課程から「低所得者支援と生活保護制度」の科目を廃止するという。同福祉士の支援対象者には生活困窮者や生活保護制度利用者が多く、生活保護に関する専門知識の習得が不可欠である。にもかかわらず、制度の必要性と活用のノウハウすらも学ぶ機会もないままでは、相談者のいのちや健康を十分に担うことができない恐れがある。

 史上最年少でフィンランドの新首相になったサンナ・マリーンさんは、「社会の強さはその社会の最も裕福な人々の持つ富ではなく、最も弱い立場の市民がどう生活できるかによってはかられる」と言う。貧困が深刻化している今こそ、日本でも、市民の生活を岩盤で支える生活保護制度を充実する方向に転換すべきだ。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。