ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

向き合うこころ

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 「今日もあまり良いニュースはなかったな」そう思いながらテレビを消そうとした時、画面いっぱいに、楽しそうな笑顔が映りました。それは、津軽鉄道のストーブ列車の様子でした。

 車内はノスタルジックな昭和の趣で、ダルマストーブの上ではするめが焼かれていました。雪の中を走る列車の中で、そのするめを食べながら乗務員さんの案内を聞いたり、同じ車両に乗り合わせた人同士が話したりしておられる雰囲気に、何とも言えないあたたかさを感じました。そして、「冬の夜」という唱歌を思い出したのでした。

 1912(明治45)年、尋常小学校の教材となったこの歌は、「燈火(ともしび)ちかく 衣縫ふ(きぬぬう)母は 春の遊びの楽しさ語る」で始まり、「囲炉裏火(いろりび)はとろとろ、外は吹雪」という詞で結ばれています。雪に覆われた厳しい冬、テレビもラジオもない時代。家族が囲炉裏を囲んで暖をとり、母は裁縫、父は縄をないながら、子供たちと過ごす一家団らんの様子を歌うとき、厳しい環境の中で寄り添い、助け合って生きる家族のあたたかさ、人のぬくもりを強く感じます。

 それから100年以上の月日が流れた今は、囲炉裏に火をくべる手間もなくなり、大抵のことは人の手を借りずとも暮らせる便利な時代になりました。個を重んじる風潮のある今の時代にあっては、煩わしさもなく合理的なのかもしれませんが、人は本当にひとりで生きていけるものでしょうか。私は「冬の夜」に描写される一コマの中に、人が生きる本来の姿が見える気がしています。

 今の社会を鑑みる時、便利な時代だからこそ、顔も見ず、声も聞かずともスマホの画面で会話が済んでしまう時代だからこそ、人とこころを向き合わせ、対話をする時間を忘れてはならないと思うことがあります。

 ストーブ列車の中で「私は人のあたたかさに会うために毎年乗っています」と言われた方がありました。向き合うこころ、人のあたたかさ。改めて感じ入るひとことでした。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。