ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

科学少年のギターと天文台

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 重苦しい話題が多い中、ちょっと明るい話題を。  映画がヒットして脚光を浴びている1970年代イギリスのロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイが、先日お忍びで京都にやってきた。音楽活動ではなく、なんと、天文学者として京大が山科に擁する花山天文台を訪れたのである。この天文台は90年前に設置され、日本における天文学研究の拠点となり、現在も太陽フレア観測で最先端にある。アマチュア天文学を世界トップクラスに育ててきたことでも有名で、科学少年天文少女らの聖地になっている。

 さて、一方のブライアン・メイ。彼はロックミュージシャンとしてトップの一人に立つまでは、大学で天文学を学んでいた。ギタリストとしては、自作のエレキギターが有名で、そのギターは父親の協力を得て当時の電子技術の先端を駆使して開発したものだ。科学少年だったのである。

 そして、ロックの世界から再び天文学の世界に戻ると、若き日からの研究を完成させて60歳で博士号を取得した。一般向けの天文学本も書いている。科学少年が生き続けていたのだ。

 現在、京大の天文研究は飛騨と岡山の新しい設備に主力を移している。そのため花山天文台は予算が削られ、存続が危ぶまれる状況だ。だが、新しい天文台にも花山で培われた京都の職人の技術が欠かせない。そして明日の科学者を生むのは、少年少女の自然への興味を育む環境である。

 そんな長期的な視点を失って、効率だけを尊んでいるのが今の日本だ。教育への投資が先進国最下位まで落ち込んでしまったこの国は、このままではいずれ落ちぶれてしまうだろう。

 かつての科学少年、ブライアンは自分の夢を次の世代に継ぐために、この古い天文台にやってきた。そして、自分のインスタグラムで天文台の存続を世界に訴えた。「音楽家として来たんじゃないけど、この素晴らしい望遠鏡についサインしちゃったよ、永遠なれ、ってね」と。科学少年は、おちゃめだ。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。