ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

普段の暮らしの幸せ

関西大教授 所 めぐみ


 「福祉」とは、「『ふ』だんの『く』らしの『し』あわせ」。福祉関係者が地域住民などに福祉を考えてもらおう、わかりやすい言葉で伝えようとするときによく使われている表現だ。誰が最初に使ったのだろう。語呂合わせではあるが、なるほどと思う。しかし実はこれ、私たちに「普段の暮らしの幸せ」って何だろう。どうやってつくり、守るのかをまさに普段から考えさせようとするものだと思う。しかし普段の暮らしを揺るがすような事態が起こるときに、ようやく何が必要なのかどうしたらいいのかに気づくことが少なくない。

 この原稿の執筆時点では、新型コロナウイルス感染が健康面からさらに私たちの暮らしや経済に影響を与えだしている。

 英国スターリング大学のドミネリ教授は「グリーンソーシャルワーク」という概念を用いて貧困、災害、環境問題など私たちの暮らしに困難をもたらす課題に対するグローバルなレベルからコミュニティーレベルまでの社会的対応、困難な状況にある個人への支援、関係者のネットワーク形成と協働、関連政策改善などへの働きかけなどに関わるソーシャルワークのとりくみを進めている。新型コロナウイルス感染が日本で発生してまもなく彼女からメールをもらった。私や友人たちの健康を気づかうとともに、人を介して感染する伝染病・その拡大による影響に備えることはグリーンソーシャルワークの課題だとのメッセージだった。

 おそらくその時点で私はその意味を十分に理解できていなかったと思う。しかし、感染の拡大に伴う対応、またその対応そのものがもたらしている混乱や困難。もともと普段の暮らしが困難な状況にあった人々にはその影響がさらに深刻になることが考えられる。

 困難の渦中にいるとき私たちは冷静さを失いがちであるが、目前の課題であるとともに私たちの今後の普段の暮らしの幸せを実現する課題としてとりくみたい。



ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。