ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

許せないという人へ

真宗大谷派僧侶  川村 妙慶



あなたには「許せない人」はいますか? 誰かによって深く傷つけられたという方は、一生心に傷が残ります。簡単に許してしまうと、自分だけが損をしたような気持ちになり、不公平になった気がするのでしょう。私の心の痛みを「相手にも同じようにわからせたい」と復讐(ふくしゅう)の心が芽生えるのかもしれません。簡単に許せない気持ちもわかります。

しかし、私の大切な人生の一部を、許せない相手のためにエネルギーを使ってしまうのはもったいないことです。そのエネルギーを自分のために蓄えていきませんか?

会うたびに心が疲れてしまうという人に対し、距離を置くことも時には大切なことです。やがて時間をかけながら「許せない気持ちを手放す」ことは心と身体にとって一番必要なことなのでしょう。

私は、「落ち込む時間が大切」だと思っています。なぜなら、どん底を経験したときにこそ人生について振り返ることができるからです。それがまさに冬の時期なのでしょう。

さて、近隣の友人が家の前に手作りベンチを設置しています。「ここらへんでベンチに腰かけませんか?」の呼びかけに私も腰かけてみました。冬のベンチに哀愁を感じたのです。春は、ウキウキした気持ちで、桜やきれいな景色に目がいきます。夏は暑くてベンチに座る気持ちにはなれない。やがて秋から冬になるころ、落ち葉を見ながら下をみたとき、「こんなところにベンチがあったのか?」と腰を下ろす。寒い冬の中になんともいえないぬくもりを感じるのです。

人生の四季を味わって、「いろいろな人生を経験したからこそ私になれたのだ」と思えたとき、つらい出来事も機縁として受け入れることができるのですね。あなたも誰かのことで腹が立ったり、落ち込んだときベンチに腰かけてみませんか? 阿弥陀さまが大地の底から(浄土)「あなたの人生を安心して生きたらいいのだよ」と受け止めてくださいます。



かわむら みょうけい氏
アナウンサー。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。