京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 音連れ真宗大谷派僧侶 川村 妙慶先日、Oさん(10代男性)と出会いました。Oさんは、母が自死し父と2人暮らしでしたが、父の存在を受け入れられなかったそうです。そんな息子に父は、毎日声をかけますが、Oさんは無視し続けます。 あるとき父は、「私がどれだけおまえを大切に思っても、母さんを殺した私としか見られないのだね。私は悲しいよ。悲しいよ」と涙したそうです。それでもOさんは父の言葉を受け入れられませんでした。それから数年後、父は事故に遭い亡くなられたそうです。 葬儀を終えたあと、Oさんは初めて父の部屋に入りました。そこには大学受験のために積み立ててくれたお金、母から「息子を頼む」と書かれた手紙が出てきたそうです。そのとき、Oさんは「俺は何も知らなかった。母ちゃんはオヤジのせいで死んだんじゃなかったのか?」とわかったとき、はじめて涙があふれてきたそうです。 「音連れ」。私自身に呼びかける言葉に耳を傾けるということです。 Oさんは、父に対して素直になれずにいた自分自身を憎んで生きていたのでしょう。どれだけ父が心を開き、声をかけてくれても自我の心を強くして父の声を聞くことはできなかった。自分が不安でたまらなかったからこそ、それを父親に怒りとなって向けていたのです。 私は「自分を責め続けていると真(まこと)の声が聞こえなくなってしまうよ。人間というものは、親を失ってみないと聞こえない声がある。つらいけど、これからは南無阿弥陀仏のお念仏を称(とな)えながら、浄土から呼びかけてくる父母の『音連れ』を聞いて、大切なあなたの人生を生き切ってほしい。それが親への恩返しなのだよ」とお伝えしました。 自分を守るために自我を強くしても自分自身を苦しめるだけです。仏さまは、その自我を慈悲の光で照らしてくださいます。やがて自我から解放されたとき、私の人生を大切に生きることができるのです。 あなたも「音連れ」に耳を傾けてみませんか?
かわむら みょうけい氏
アナウンサー。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。
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