京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 人材への投資
いま、少子化対策で、子ども子育て政策をどう充実させるかが問われている。 経済人や社会学者、政治学者の間でも「日本には資源がないから、人材への投資を増やして国や社会の活力を高めることが必要だ」という人は少なくない。 例えば大学の基礎研究部門にもっと資金を入れて、研究開発力を高め、世界で稼げる技術や商品の発明につなげよというのである。 それはもちろん必要で、そういう研究が大好きで、夢中で研究に集中するような人には、そういう機会を惜しみなく与えてほしい。 しかし、投資するのは、優れた成果をあげそうな人だけでよいのだろうか。 世の中の大多数の人は、稼げる大発明などには縁がないにしても、しかし、自分の能力をそれなりに伸ばして人の役に立ち、幸せに暮らしていきたいと願っている。行く末の見えない昨今だから、もうそれも諦めてその日暮らしの人も少なくないかもしれない。 みんなで大切にして、力づけなければならないのはそういった人たちである。 たとえ市場で稼ぐ能力はなくても、適切な分配によって、人として誇りを持って暮らせるだけの経済的支援を確実に行う。 その上で、まわりの人たちがその人の存在を認め、持っている能力を上手に引き出す。そしてその人がやりたいことをやってみせれば、手をたたいて喜び合う。障がい者になっても認知症になっても、それぞれに元気で笑って暮らせる社会こそが、本当に活力ある社会ではなかろうか。 物の豊かさよりも心の豊かさを大切にする時代に入った先進諸国の人々は、これからは、すべての人がそれぞれに自分を生かして人生を楽しんでいる国にこそあこがれ、訪れたくなるであろう。 そしてそういう国になったら、その国の人々は、どんな状態にあっても、安心して子どもを産み、夢をもって子育てするであろう。鍵は、すべての人が幸せに暮らせる社会である。
ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。
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