ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

人生後半どう生きる?

真宗大谷派僧侶  川村 妙慶



「人生100年、私は、50歳で折り返したばかりです。夢や目標をどう持てばいいですか?」とメールをいただきました。今は、医療も進歩をとげ、さまざまな情報も入り、生きる知恵をいただけるようになりました。令和4年9月現在で、100歳以上の方は、9万526人(厚生労働省調べ)だそうです。

さて、人生は山登りにたとえられます。今日まで私たちは一生懸命に頂上を目指して生きてきました。頂上を見渡せた方は爽快な気分を味わえますが、山登りはこれで終わりではありません。山を下りることも重要です。「下」というとまるで落ち目のイメージですが、そうではありません。

山を登るときの目線は上です。理想を求め、あるときには、何かを犠牲にしてまでも頑張って、大地をふみつけて登っていきます。

山を下るときの目線は下で、足元をみながら、登るときには気が付けなかった足元の花を楽しみながら下っていきます。そこには受け止める大地があるから下れるのです。登る(向上)も必要だけど、残りの人生は「向下」を味わうことも大切なのでしょう。

それを善導大師(中国の僧侶)は「帰去来(いざいなん)」とお教えくださいました。帰るというのは、ただ後戻りをするということではありません。「私を支えてくださる命に帰り、忘れてしまったことを回復する」という意味なのです。

師は私に「すべての命にお礼をいう時間をいただくことが向下の道だ」とお教えくださいました。今まで踏みつけていた大地に立ち返り、今までお世話になった人のことを思い出し、たとえその方が亡くなっていても、合掌しながら憶念できるのか。残りの人生で「やっておかないと後悔すること」を考えながら生きていくのも大切なのでしょう。気になっている所へ旅してみるのもよし。誰かにお手紙を書くのもいいですね。

お彼岸は、お浄土を味わう仏教行事です。「土」に支えていただいていることに感謝し、「浄(きよ)」らかな心を取り戻したいですね。



かわむら みょうけい氏
アナウンサー。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。