ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。

コラム「暖流」


コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

88歳の反省

さわやか福祉財団 会長
堀田 力




さわやか福祉財団が主催する「いきがい・助け合いサミット」は、ホップ(問題提起)の大阪、ステップ(議論)の神奈川を経て、9月1、2日の東京大会のジャンプ(解決策提起)で終えた。

明るい日本の未来をみんなで拓(ひら)いていこうと呼びかけたのが、地域共生社会への転換。3千人を超える参加者のおおかたの共感が得られたのはうれしいが、そもそも論を言えば、人類はチンパンジーと分かれた時から、というか、チンパンジーだった頃から、地域で助け合って暮らしてきているわけで、それがなぜ今頃になって地域共生などと改めて目標を立てなければならないのか。

それは、88歳の私を含む超高齢世代およびその前の世代あたりの人間が、地域の共生社会をぶち壊したからではなかろうか。

それらの世代は頑張ってとてつもない速度で科学技術を発展させ、信じられないような生活の便利さを実現したが、その反面、いろいろなものを壊した。

地域コミュニティー、人の絆、自然環境。そして、新しい格差と大量破壊兵器をつくり出した。

壊れた地域コミュニティーを再生するだけでこんなに大変なのに、自然環境も復元し、格差を解消して平和を維持するのに、われわれの後の世代にどれだけ頑張ってもらわないといけないのか。

それを思うと、何とも申し訳なくて、反省してもし足りない切なさがある。

せめてわれわれが生きているうちは、できる限りのことをするしかないが、できることは、地域でほそぼそとお役に立つぐらいのことだろう。

ただ、救いは地域の細やかな助け合いや子どもとの交わり、居場所でのあたたかなつながりなどが、自然や平和を大切にする心や、格差を埋めるいきがいを生み出したりすることである。

大きな幸せは、小さな小さな思いの積み重ねから生まれると信じたいのだが、若い世代には破壊世代の居直りに聞こえるだろうか。


ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。