ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

こころにしみる味

僧侶・歌手 柱本めぐみ



「寒い時、何が食べたい?」と聞かれたら、やはり鍋料理やおでんなどでしょうか。どれも大好きですが、私の冬の味の上位には実家近くにあるお蕎麦(そば)屋さんの「たぬき」がランクインします。

関東では天かす(揚げ玉)を乗せたおうどんやお蕎麦を「たぬき」と言うそうですね。また、きつね蕎麦が出てくる地域もあると聞きますが、所変われば品変わると言う通り、刻んだお揚げにアツアツのとろりとした餡(あん)、生姜(しょうが)を天盛りにしたのが京都の「たぬき」。中でも子どものころから食べている「たぬき」は格別で、身体が芯から温まり、こころにしみ込んできます。

祖母は気ごころの知れたお客様が来られると、「おうどんでもとりまひょか」と言っていました。今ほど飲食店が多くない時代、祖母流のもてなしでもあり自分の楽しみでもあったのだと思います。私もお相伴にあずかれて、うれしかったことを覚えています。

祖母が亡くなってから母もお友達が来られると出前を頼んでいました。家だと気兼ねなくていいとおしゃべりしながら笑顔の食事。本当に楽しそうでした。

年月を経て、介護付き住宅で暮らすようになった母を家に連れて帰った3年前の12月。懐かしいだろうと思って「たぬき」を一緒に食べると「ああおいしい」と繰り返しながら私より早く完食しました。また一緒に食べようと約束したのですが、間もなくしてコロナウイルスがまん延。外出どころか面会も厳しくなり、最近は私の名前も思い出せなくなってしまいました。一時的な症状であることを願いながら、もし一緒に「たぬき」を食べることができたら思い出してくれるかなと考えたりもします。

おいしいものはたくさんありますが、舌で味わうだけでなく、こころにしみる味というものがどなたにもあると思います。それは誰かとつながって生きたから今という時があることの証の味、感謝の味だと言えるのではないかと思います。明日も、おうどんがおいしい日になりそうです。


はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。