ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

対人援助者へも援助の手を
「感情労働」に潜む問題点

 

上仲 久(うえなか・ひさし)さん


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対人援助職の援助について講義する上仲久さん
 「ケアにかかわる人たちが疲れてしまい、職場を去っていくことがあとを絶ちません。仕事に熟達した人を現場からなくすのは、もったいないことです。そのしんどいのは単に身体ではなく、人と付きあう際の精神的な疲れが潜んでいるんです。このような仕事を感情労働という概念でとらえ直すとともに、看護師や教員など対人援助職者へ援助の手が社会的に必要になっていると思っているんです」

 特定非営利活動法人「援助者の援助 クローバーハウス京都」の理事長上仲久さん(45)は、事務所=亀岡市篠町馬堀広道7-1-103。TEL 771(21)8105=で、そう話し出した。

 07年度の常勤看護職員の離職率は全国平均が12・6パーセント。京都府は15・7パーセント、滋賀が13・6パーセント(日本看護協会調べ)で同平均を上回っている。

 上仲さんは京都市内で長年、看護師として働いているが、「仲間が次々に辞める。また新入者でも短期間に辞めることがある。どうしてだろうか? なにか解決策はないだろうか」。自分の体験も含めて問題をとらえ、98年に常勤からパート看護へ転進。時間を作って勉強し始めた。オーストラリアの大学の通信制を約2年で卒業。次いで立命館大学大学院(応用人間科学科)を終了した。

 「この間のゼミでの討論や教授からの指導・助言などを通じて感情労働を中心に研究してきました。その中で、現実には解決必要な問題が多いことが分かってきました。そこで、実際的にできるところから援助の手を-と、3年前に同僚や学識者、ケア関係者などとともに、特定非営利活動法人を設立しました」。目標としては、対人援助者の自己表現や感情のコントロールなどにより生じた疲弊状態に焦点を合わせた教育、トレーニング、語りの場の提供のほか、この分野の研究・調査などを掲げている。「ケアについては、家族同士の会話や気持のやりとりなど、以前は家庭の内で行われていたのですが、今ではどんどん外の社会に移っています。その分を、看護師などが感情労働として直面してきている訳です」と、人的サービスの変動を指摘する。

 法人設立から2年半。これまでの予防的活動としては教育を主にしている。舞鶴、福知山、京都市などの専門学校などでの「人間関係論」などの講座に上仲さんが出講。看護学校の教員らと協力して家族理解のコミュニケーションなど新しい領域に挑んでいる。ついで高齢者支援の地域包括センターでの学習会、外国人の生活を支援する団体での研修会などへ、広がりを見せている。一方、対策面では「感情を生き生きと、沸き上がるように」するためのリフレッシュ企画が中心で、スキー、海釣り、山登りなどを催している。

 「まだまだ活動が不十分ですが、これからの課題が、徐々に見えてきています。たとえば、語り合いの場の設営や燃え尽き症候群について感情労働の視点からの見直し、あるいは、自他尊重の爽やかな表現(アサーション・ケア)の推進など、現場の人への援助を通して社会的に役立つよう努力します」と結んだ。