ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

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月2回の園芸部活動。若者たちと観葉植物の植え替えをする横江さん(京都市南青少年活動センター)

心身の居場所をつくる
若者の成長サポート

 

横江 美佐子(よこえ みさこ)さん



 財団法人京都市ユースサービス協会職員の横江美佐子さんが日々向き合うのは、中学生から30歳までの若者たち。京都市内に7カ所ある青少年活動センターのうち、5年前から南青少年活動センター=京都市南区西九条南田町72、TEL 075(671)0356=が職場だ。多様な若者の成長をサポートし、後輩指導も担うチーフユースワーカーを務める。

 「他者とうまくかかわれない若者が増えた。十代後半から二十代にかけての人が『行ったら友達できる?』と、よく聞きますね」。喫茶コーナーのあるセンターで、相談活動や企画を幾つも準備して若者を受け入れ、彼らが踏み出す手助けをする。生きづらい若者たちの心身の居場所づくりである。

 企画の一つに「お鍋の会」がある。集まった若者たちで鍋を囲む。「同世代が出会い、関係を紡ぎ直すきっかけに」と始めた。2年前から男女別の会もつくる。

 「一緒だと無意識であっても男女の役割を演じてしまい、本音が出ないから」

 その女性の会が小さな実を結んだ。非正規雇用で働く二十代の4人が、会を機に誕生日などに集まるようになり、ネットワークができた。「彼女らの話しぶりから、互いに励まし合っている様子が伝わってくるんです」と喜ぶ。

 これまで出会った若者の中には、暴力やひきこもり、性の問題など、重い課題を抱える例も多い。

 10年ほど前だった。望まないセックスの結果、妊娠、中絶したケースに直面。セクシャル・ヘルスの重要性を知る。当時、職員たちは、性は個人的な問題として距離を置いていたが、横江さんは「結果だけでなく問題全体を考えないと」と、思春期保健相談士の資格をとる。「家庭環境をはじめ、背景には複雑な問題がある。人さびしさで多くの異性とセックスする若者もいる。性感染症に対しても無防備。セックスがなくても人間関係は築けることを話しているが、それでも止められない若者の支援も必要です」

 未成年喫煙や暴力を目にすることもある。そんな時、「あなたの『行為』は認めないが、『あなた』を否定しているのではないよ、ときちんと言うよう心がけています」。「ボキャブラリーが少ない若者たちは『死ね』『きしょい』の一言で腹立ちや悲しみを投げつけ、説明するよりも暴力に頼る。若者がコミュニケーション能力を身につけるには、周りの大人たちがモデルとなって、粘り強く語りかけ、人とのかかわり方を態度で伝えることが大切だと思う」

 横江さんは子どものころ、両親の方針で野外活動サークルなどに通い、親とも先生とも違う大人たちと出会った。社会のルールやふるまい方を自然に吸収した体験が、日本福祉大学で学校外教育を学び、現在の職を選んだ根っこにある。

 職に就いて約20年。経験を積むほど、移行期の若者をサポートすることの重大さと難しさが見えてくる。ため息をつく日もあるが、あきらめない。昨年から立命館大学大学院で対人援助学の研究を始めた。向き合ってきた若者たちが、横江さんの成長を促す原動力になっている。その横江さんの姿勢に触れ、セクシャル・ヘルスを担う後輩職員も育ち始めた。