ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

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プールの中で障害者シンクロナイズドスイミングチームの指導をする森田さん(京都市障害者スポーツセンター)

障害者シンクロ指導
一人一人の違いを生かす

 

森田 美千代さん(もりた みちよ)さん



 「はーい、音楽に合わせてー。出来る人は後ろ回りをして」。京都市障害者スポーツセンター=京都市左京区高野玉岡町5 TEL 075(702)3370=の室内プールに森田美千代さんの声が響く。森田さんは日本障害者シンクロナイズドスイミング協会会長であり、実技指導者だ。伸び伸びと練習するのは28年前に誕生した日本初の障害者シンクロチーム「京都コスモス」のメンバー。

 京都には他に2チームあり、肢体障害、視覚障害、知的障害など小学生から80代までさまざまな人がシンクロを楽しむ。小学校教諭でもある森田さんだが、週1回はスポーツセンターで指導に立つ。

 京都市生まれの森田さんは、小学生の時に京都踏水会でシンクロに出合い、高校時代のベストは日本選手権3位、大学ではコーチとして後進育成に力を注いだ競技歴を持つ。1982年、京都障害者スポーツ振興会の誘いで障害者水泳教室の卒業生らにシンクロを指導することになる。

 「演技を簡単にすればと思って始めたものの、足を高く上げる動きを低くと変えても、足が上げられない人がいる。皆に同じ演技を求めるのは間違いだと気づきました。目の前の一人一人をみて、何が向いているのか、背浮きか、平泳ぎか・・・と考え、障害の違いを生かし、個々の力を発揮できる指導が必要なのです。重い障害の人も水の特性でできることがある。工夫してできることを見つけ、時間がかかっても次に進む。それがメンバーの自己表現や、可能性への挑戦に結びつくと思っています」

 一人でプールに入るのが難しい人や泳げない人は、パートナー(支援する人)と水に入り、一緒に演技をつくり上げていく。「パートナーも演技者。障害の有無や、介助する、されるという関係ではなく、シンクロというスポーツを楽しみ、共有するのです」

 88年、全国身体障害者スポーツ大会京都大会の水泳の開始式で初めて障害者シンクロが公開演技に採用され、徐々に全国に広がる。

 92年、各地のチームに呼びかけて第1回障害者シンクロナイズドスイミングフェスティバルがスポーツセンターで開かれた。6都府県から7チーム計54人が参加、演技を披露した。以来毎年開催し、今年5月の第20回フェスティバルには14都府県から309人が集い、イタリアからゲスト出場があった。海外では競技化されている例もあるが、森田さんは「競技化の検討は必要だと思いますが、多岐にわたる障害を加味した公平なルール作りが大変重要になるため、試行錯誤中です」と言う。

 フェスティバル参加者は20年で6倍に、参加実績がある都府県は21を数える。着実に広がってきた障害者シンクロだが、「まだまだ知らない人や、やりたくても機会がない人がいます」と森田さん。

 協会は4年前から毎年1回、「障害」を理解する座学も組み込んだ指導者養成講習会を開き始めた。将来を見据えて指導者層の充実を図り、さらに普及に努める。

 「日本のどこにいても障害者シンクロができる環境をつくり、フェスティバルには47都道府県すべてから出場者があるようになれば」。森田さんの願いだ。