ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

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仕事中の中川さん。支援計画の作成や、県外帰住希望者について他府県のセンターと調整するといったデスクワークも多い(滋賀県地域生活定着支援センター)

出所者と地域福祉つなぐ
丁寧に寄り添い支えたい

 

中川 英男(なかがわ・ひでお)さん



 矯正施設(刑務所など)を出た福祉の支援が必要な高齢者や障害者を、速やかに福祉サービスにつなごうと、厚生労働省と法務省が連携して2009年度から事業を始めている。核になるのが厚労省が都道府県に原則1カ所設置を進める地域生活定着支援センター。出所しても帰る場所がない人に、入所中から受け入れ先の福祉施設を探すなど、支援体制を調整する。またすでに出所した人で福祉サービスを必要とする人の相談支援業務などを行い、司法と地域福祉の橋渡し役を担う機関だ。8月末現在、全国に43カ所設置されている。

 中川英男さん(60)は、09年8月に設立された滋賀県地域生活定着支援センター=近江八幡市桜宮町235、TEL0748(34)3655=の所長を務める。

 滋賀県のセンターはこれまで矯正施設や地域関係機関などの依頼で、継続を含み計102人の支援をしてきた。中川さんと3人のスタッフは、該当者に面接を重ね、希望を聞きながら住むところや仕事の道筋をつけ、療育手帳などの申請手続きを助け、支援者探しや受け入れ先の福祉事業所のフォローに日々奔走する。

 さい銭や自転車を盗むことを繰り返したホームレスの男性(60)代がいた。窃盗罪で服役するが、模範囚で仮出所となる。帰る先がなく更生保護施設に入ったところ、自分の部屋が分からなかったり、外出先から戻れないなどの行動がある。医師の診断で認知症と分かった。中川さんは「逮捕時には発症していたと推測できますが、外部と接触の無い刑務所内では症状が分かり難かったでしょう。認知症でも罪は罪ですが、この人の場合、問題は抱えているものの何回も刑務所に入れる人ではない。福祉施設で認知症のケアを受けることが、この人も、また(再犯を防ぐ意味で)社会も守ることになると思います」と言う。

 男性は養護老人ホームに入所が決まった。本人はこの施設で絵を描く楽しみを知り、刑務所には一度も面会に行かなかった親族が老人ホームには会いに行った。

 軽度の知的障害がある男性は、盗みを重ねて起訴されたケース。家庭環境に問題があり、福祉関係者が見守ることを条件に執行猶予になった。現在、福祉関係のチームに支えられて内職をしつつ地域生活を続けている。最近は、自分の気持ちが混乱しそうになると自ら支援者にSOSを発信するようになった。「人間不信に陥っていて支援を受け入れてくれるまでに時間がかかりエネルギーもいるが、適切な福祉サービス、支援者の細やかなかかわりがあれば信頼関係は戻ってくる。彼の事例は私の中でひとつの財産になっています」

 中川さんは東京の大学を卒業後、知的障害関係の施設職員養成所で学び、福祉の道に入った。横浜市職員となり簡易宿泊所が集まる地区で8年近くケースワーカーを務めたこともある。30代後半からは滋賀県の身体障害者施設勤務の経歴を持ち、人を守る姿勢を貫く。

 「丁寧に」が中川さんの芯にある。「罪を犯した人の多くは虐待などで自尊心を傷つけられて育っています。自分を好きになれず、誇りを保つ気持ちが弱く、罪のハードルが低い。たとえ極悪犯でも生い立ちを丁寧にたどり、生活環境を知り、その人への理解を深めたい。そのことで一層寄り添った支援ができると思っています」