ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

生活者目線で機関紙充実
現場と社会に橋かけたい

 

若生麻衣(わこう まい)さん



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登録する約900団体の情報ファイルも備えたコーナー「市民活動情報ライブラリー」に立つ若生さん(京都市市民活動総合センター)
 NPOやボランティアなど市民活動の支援拠点である京都市市民活動総合センター=京都市下京区河原町通五条下ル「ひと・まち交流館京都」2階、TEL 075(354)8721=に、若生麻衣さんのきりっとした姿がある。

 若生さんは1996年立命館大学卒。東京や出身地の北海道で、出版社や業界誌の編集者だった職歴を持つ。学生時代からボランティアやNGOに関心があった若生さんは、2003年、センターの指定管理者に委嘱されているNPO法人に就職。同年、センターに配属された。

 設立されたばかりのセンターで任されたのは情報発信事業。センターの機関紙「ほっとポット」の立ち上げもそのひとつだった。

 編集経験を生かし工夫を凝らした紙面を作るが、一方通行の内容に次第に物足りなさを募らせる。「団体が伝えたい情報だけを載せた機関紙は、読み手にはつまらない。関係者ではなく一般の人が手に取りたいものを作らなくては。職員が良いと思うことと読み手の感覚は違うだろうと思ったのです」

 かつてマスメディアに身を置いた経験から、現場に遠いところからの発信は人の心に届き難いと感じていた。「NPOやボランティアが活動しているのは地域。そこで暮らす人たちの感覚で作れば共感を呼ぶはず」と、若生さんは生活者目線の紙面作りを提案する。08年のリニューアルを機に、NPO初歩講座の受講者をはじめ、これぞと思う人に直接当たってチームを組織した。主婦や定年退職者、会社員らが読者スタッフになり、企画から取材、執筆を担う。自由なアンテナで市民活動をとらえ、身近で生きのいい記事があふれ始めた。職員は黒子役に徹し、センターの情報は最小限に絞った。

 現在の「ほっとポット」は年3回発行、カラーのタブロイド判4ページ。最新号は被災地の子どもをキァンプに招いた若者や自転車シェアに取り組むレンタサイクル店など、5件の市民活動を取り上げている。

 当初4人だった読者スタッフは、20代から60代までの17人に増えた。写真やレイアウト担当者もいる。9年前の創刊時は1500部だったのが、読者スタッフ導入で倍増。町なかに人脈が広がりカフェなど設置協力店が約130ある今は9000部を発行する。

 センターの印刷物の発送作業に仕掛けをしたのも若生さん。約2400ある関係先への発送物に、センターを利用する団体のチラシも同封する。同封を希望した団体は代わりに作業を手伝う仕組みだ。10〜20団体が加わる。接点のなかった団体の人たちが共同作業でつながり、影響し合い始めた。

 「事業を外に開き、多くの人がかかわると、意図を超えて面白いことが起こる。分野、領域を越えたコラボレーションが生まれると思うのです」

 若生さんは昨年度から副センター長になった。全体への目配りと、広範で専門的な知識が求められる。若手職員を見守り育てる一方で、龍谷大学大学院政策学研究科で地域とNPOの連携について研究を深めている。

 20年ほど昔、学生だった若生さんは福祉の現場を歩いた。その時から胸にある「現場と社会に橋をかけたい」という思い。次のステップではどのような花を開かせるだろうか。