ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

障害者施設で作陶担当
完成度高め本人の自身に

 

渡辺 仁(わたなべ ひとし)さん



写真
陶芸班の作業室でメンバーの作った製品を手に取る渡辺さん(修光学園)
 グレーやベージュの幾何模様が温かですっきりした印象の陶器。カップや皿、花器もある。

 障害者施設(生活介護・就労継続支援B型事業)「修光学園」=京都市左京区修学院山添町8の2、TEL 075(702)1700=の陶芸班メンバーが、練り込み技法で作る製品だ。1988年の園開設当初から陶芸作家の指導で取り組む。91年には「練り込み箸置き」が京都府主催のデザインコンテストに入選。大手企業や老舗と肩を並べてベストデザインに認められ、その後の評価も高い。

 園部長の渡辺仁さん(49)は、初めて製品を見た20年近く昔の驚きを鮮やかに覚えている。「まだ前の職場だった時です。完成度は群を抜いていた。正直言って、誰かが代わりに作ったんじゃないかと思ったくらいでした」。当時、製品自体の完成度にも力を入れている授産施設は珍しかった。「修光学園の場合は、園全体の考え方として、障害のある人も社会に通用する商品が作れることを示そうという目標があったからでした」

 園には知的障害がある人たち31人が通っており、陶芸、クラフト、製菓の3班に分かれて製作に取り組んでいる。渡辺さんは佛教大学卒業後、京都市内の福祉施設で16年間勤務。2001年に修光学園へ来て以来、陶芸班の担当を務める。

 作陶は、10工程以上の作業がある。色が違う2ミリの厚さの粘土を交互に何十枚も重ねてブロックを作り、層と垂直にスライスする。できたしま柄の粘土をさらに組み合わせてさまざまな模様の粘土板にし、型を使って成形。乾燥、素焼き、本焼きでようやく完成する。

 「毎朝、その日の作業内容を説明し、メンバーの希望にそって分担を決めます。スタッフの工夫で、皆がなんらかの形でかかわります」。器を磨くサンドペーパーは扱いやすいように棒の先に巻きつけておく。釉薬(うわぐすり)をかける時に器の一部をつまみ持つ道具は、代わりに、器全体をはさみ込み簡単に作業できるものを考案した。一人一人の力に応じた作業環境づくりに心を配る。「時間はかかっても、個々のペースで確実に上手になります。乾燥後の器はもろく扱いに注意が必要ですが、いつの間にか割らずに磨いてはります」

 出来上がるとメンバーと一緒に点検をする。「模様がきれいに出たのは○○さんが丁寧に磨いたからやね」「この部分は少し直すともっと良くなるよ」などと声をかける。完成度を上げるためかと思えば、肝心な点は別にあった。

 「一つの製品を完成させるために自分の役割があり、必要とされていることを知ってもらいたい。作業がご本人の自信や生きがいのひとつになればと思うからです。仕事であることで、果たすべき事や乗り越えるべき事が分かりやすい。やる気を起こしたり充実感を味わってほしいのです」

 製品は京都市・五条坂の「陶器まつり」や小売店、手作り市などで販売するほか、受注製作にも対応している。

 渡辺さんが学生時代に思い描いた未来は、企業が障害者を雇用するのは当たり前になっている社会だった。それから四半世紀余り。現実は依然厳しいが、手間ひまのかかった陶器が相応の評価を得ることは、メンバーや園だけでなく、障害者の社会参加実現への希望にもつながっている。