ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

「仲間」として信頼築く
依存症の社会復帰支援

 

入江 泰(いりえ・やすし)さん



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食堂の一角でコーヒーを飲む入江さん。お気に入りのマグカップはクリスマスのプレゼント交換で仲間にもらった(京都マック)
 アルコールやギャンブルなどの依存症からの回復を支援するNPO法人京都マック=京都市下京区大宮通七条上ル、TEL 075(741)7125=は1990年に開設、2011年から障害者自立支援法による生活訓練施設を運営する。精神保健福祉士の資格を持つ入江泰さん(38)は、宇治市と京都市内の病院で計13年間勤め、精神科ソーシャルワーカーなどの経験を積んだ後、昨年4月から京都マックの職員となった。日々、通所施設のアディクションセンターに詰めている。

 センターの利用日は日曜日午前中を除く、毎日午前9時から午後5時まで。アメリカで生まれたアルコール依存症当事者グループの回復プログラムを礎にしていて、1日2回のミーティング(グループセラピー)が中心になる。

 ミーティングでは、仲間たちの前で一人ずつが自分のことを話す。依存症の苦しみや回復への希望、生い立ちや生活の不安もある。聞いている人は黙って耳を澄ます。ただ話し、聞くだけ。

 「ここでは回復を願って通ってくる人を仲間と呼びます。仲間と一緒に過ごして話を聞くうちに、一人ではないと気付き、素直に自分と向き合えるようになり、人への信頼も芽生えてくるのでしょう。通い始めて1年近くたって、ようやく話し出す人もいます。ミーティング以外にも、掃除や共同の食事作りなど、すべてが健康的な生活習慣を身に付け回復するためのリハビリになります。見学会やスポーツ行事などもあり、学校に近い感じです」と入江さん。

 一日の平均通所者は昨年度で16人。30ー50代が多い。アルコールとギャンブルの依存症が大半だが摂食障害や薬物依存の人も。

 「酒やギャンブルを一日一日やめ続けていくのですが、そのためには耐える力とか葛藤に対処する力を付けなくてはなりません。例えば対人関係で自分の思い通りにならない時、職員に頼って解決しようとしても、あえて本人の対処に任せて遠目に見守るように努めています」

 回復者が職員として通所者を支援しているのも重要な点で、全職員の半数ほどを占めている。

 「相談にのり、アドバイスをし、自らの姿を回復モデルとして示すことが、知らず知らずに仲間たちの頑張る力になっています」

 依存物に近づかないよう、本人の承諾を得たうえで担当職員が金銭管理も行っている。金の使い道からうかがえる生活の変化を見逃さず、再発防止に心を配る。

 通い出して3年で仕事に就き、自助グループに属しつつ社会生活を送る人がいる一方で、職員が気付かない間に依存に戻っていく人もいる。「一、二日休んでるなと思っていたら、再発だったというケースもある。がっかりしますが、依存症のために病死や事故などで亡くなる人を多く見てきたからか、生きてさえいてくれたらいい、とも思います」

 年単位の気長な道程となるが、「依存症で苦しんでいる人に、やめ続けられる世界があることを知ってほしい。施設は通過点です。回復者や仲間と出会い、依存から覚めて社会復帰してほしいです」。