ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

自信持たせ社会とつなぐ
若者らの自立後押し

 

長岡治明(ながおか はるあき)さん



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談話コーナーの長岡さん。利用者はボランティアの女性とゲームをするなど思い思いに過ごしている(りんごの広場)
 さまざまな理由から求職活動に踏み出せない、生活困窮者や生活保護受給者、ひきこもりなどの人を支援する拠点が京都府北部にある。「日常生活」と「就労」を支援し、自立の後押しをしようという京都府の事業で、府内4カ所に設置されているうちのひとつ。「りんごの広場」=福知山市厚中町4の2、0773(23)1741=の名で、2011年9月に開設された。NPO法人「まごころ」(綾部市)が事業を受託し、職員の長岡治明さん(47)がセンター長を務める。

 スタッフ3人を基本にし、NPOのメンバーが必要に応じて加わり運営する。本人や家族からの相談を受け、面談や専門家によるカウンセリング、訪問支援などを重ね、心のケアや就労準備をし、就労に結びつけていく流れだ。

 広場は、元はカフェだったしゃれた建物。利用者がいつ訪れてもいい「居場所」であり、人と接するレッスン場になる。支援プログラムとして、パソコン講師の経験がある長岡さんがパソコンの基礎を教えたり、ボランティアと一緒にパンやケーキを作り、畑で野菜も育てる。福知山マラソンのボランティア班に参加するなど、ボランティア活動にも取り組んでいる。一日平均4、5人が通ってきており、11年度は48人が登録し利用した。

 15ー64歳という幅広い層が対象だが「相談の7、8割は若い人」という。「ひきこもりで一度も働いたことがない人や、自分の適性を知らずに就職、離職を繰り返して自信を失い、就労意欲をなくした人も多いのです」と長岡さん。「若い人は、パンが焼けた、ボランティアで役に立った、といった小さな成功体験を重ねることで自信をつけていきます」

 意欲を育て、個々に合った仕事を話し合いながら探す。時間がかかるが、農業生産法人で就労体験を始めた30代や、アルバイトをする気になった20代もいる。

 長岡さんが今気掛かりなのは、中高年層の相談が少ないこと。

 「まだケースが少なく手探り状態ですが、若い人とは違う支援プログラムが必要。歩んでこられた人生経験を生かしたプログラムができればと思っています」。大人だけのグループづくりも検討し、年配者が利用しやすい環境を模索する。

 「誰もが、いつリストラや病気や家族の問題で職を失い、生活困窮者になるか分からない。離職期間が長期になると、社会との接点をなくしエネルギーを失っていきます。そうした人々に寄り添い、生活を立て直すために今できることを一緒になって考えたい。もう一度、社会とつなぎ直すことが大切だと思います」

 長引く不況で生活保護受給者は増え続け、全国で210万人を超えた(12年3月現在)。広場の役割や必要性をもっと訴えたいが、デリケートな部分がある。生活保護受給者という点が強調されると、世間の目を意識してかえって相談しにくくなる人もあるだろう。

 現在、作ったパンなどの販売や、カフェの開設に向け、計画を進めている。長岡さんは「居場所そのものが、支援の内容を自然に広めてくれる場になれば」と、期待をこめて奔走している。