ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

無心で話聴き寄り添う
犯罪被害者や遺族支援

 

松村 裕美(まつむら ひろみ)さん



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フクロウをかたどった信楽焼のオリジナル募金箱を手にする松村さん(おうみ犯罪被害者支援センター)
 NPO法人おうみ犯罪被害者支援センター=大津市京町4丁目3の28、TEL・ファクス077(527)5310=の理事で専門相談員の松村裕美さん(61)は、団体が発足した2000年から活動にかかわる。ボランティアの相談員を続けていたが、09年春、勤めていた滋賀県権利擁護センターを辞め現職に。相談員の育成、企画、広報と多忙な日々を送る。

 支援センターは月〜金曜日の午前10時〜午後4時の間、専用電話=077(525)8103、(521)8341=や面接で相談を受けている。殺人や傷害、性被害、財産犯、いじめや交通事故など内容は広範だ。

 登録するボランティア相談員は42人。臨床心理士、司法・行政関係者、被害者遺族らが講師となる連続講座を修了後、実習を重ね、1年かけて認定を得た人たちだ。交代で支援センターに詰め、松村さんと共に支援に当たる。

 「相談というと、答えやアドバイスを示さなくてはと思いがちですが、そうではない。じっくり話を聴き、相手が自分のなかにある答えを探し出すまで一緒に考えることが大切。相談員には、被害者や遺族のためと思うのではなく、活動を通して自身が何かを得てほしいと言っています」

 松村さんは20年以上、教育や福祉関係機関で相談業務に携わっていた。職場で相談を受けている時、話を聴きつつ頭の中の半分では解決策を探している自分がいたという。どの部署、機関につなぐか、必要書類は、段取りは、と。それが、支援センターで解決策のない内容にぶつかった。「死んだ子に会いたい」「時間を戻して」…。「相談業務の基本に立ち返らせてもらえました。無心に聴くこと、寄り添うことが一番大切なのだと、あらためて考えました」

 09年から支援センターは滋賀県と県警の業務委託を受ける。相談件数は年々増え、11年度は736件に。電話や面接相談だけでなく、直接的な支援もある。

 「心の癒やしが重要とされますが、それだけでは何も進まない。困っている人が目の前にいたら現実的に支えなくては」。必要に応じ裁判所や病院、行政の窓口などに出向く。傍聴に付き添い、DV被害者の保護や申請書類作成の手助けなどもする。

 昨年度は聴覚や知的障害がある人などのためにリーフレットを作った。イラストと分かり易い表現で「ひとりでなやまないで」と相談を呼びかける。今年度は聴覚障害の人にと緊急時用携帯カードを製作中。被害に遭った時、近くの人に見せることで110番通報を頼める体裁になっている。

 毎月、相談員のスキルアップに開く研修会、被害者や遺族の手記などを朗読する啓発活動の練習もある。財政難も悩ましく、独自に信楽焼の募金箱を作製するなど知恵も絞る。

 そのなかでいつも立ち戻るのは、原点。「あの人にならまた話したい、と心開いてもらえる相談員でありたい」と言う。

 長い付き合いの遺族がいる。「命日にお花を供えに行っていいかを尋ね、いいとおっしゃれば伺う。迷いもありますが、私たちは忘れていないとお伝えしたい。終わりはないんですよね」