ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

ボランティア育成
学生の山村支援後押し

 

名賀 亨(なが・とおる)さん



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研究会で学生たちと今夏のワークキャンプを振り返り分析する名賀亨さん(華頂短期大学・名賀研究室)
 京都府南丹市美山町の「限界集落」で2008年から山村支援活動を続ける学生たちがいる。核になるのが「京都ボランティア学習実践研究会」=京都市東山区林下町3の456、華頂短期大学・名賀研究室気付、メールアドレス=の代表を務める名賀亨・同短期大准教授(58)。

 子ども時代に父親を亡くした名賀さんは、交通事故遺児への奨学金を受けた体験がある。その時出会った募金活動が原点になり、88年から大阪ボランティア協会職員に。高校生のワークキャンプを担当するなかで、活動を通じて成長する若者の姿に明日の社会を開く可能性を感じとった。以来四半世紀近く若者のボランティア育成・支援にかかわっている。

 06年に華頂短期大の教員に迎えられたのを機に、拠点を大阪から京都へ。京都府内の社協関係者と研究会を立ち上げ、ボランティア活動を教育と福祉の両面から深める実践研究をする。

 過疎・高齢化が進んだ美山町知井地区内の集落で、学生たちとワークキャンプを始めたのは08年9月から。夏冬を軸に年数回訪れ、1週間前後泊まり込んで力作業の手助けをする。京都を中心に京阪神の学生が毎回10〜30人程度集まる。これまで15回実施。19大学、延べ270人が参加した。

 名賀さんは「地元には、知らない人間が入って来ることに懸念があったと思います」と当初を振り返る。初回は3泊4日。21人が共同で自炊生活をしながら草刈りや用水路の泥あげをした。「学生たちは雨の日もずぶぬれになって作業をしていました」。住民の半数以上が高齢者の集落は担い手不足が深刻だ。毎年雪かきの応援に行き、獣除けネット張りもする。

 作業の合間にお年寄りと語らい、食事を共にすることもある。行事の手伝いで交流を深め、「次はいつ来る?」と楽しみにされるまでに信頼関係をはぐくんできた。

 ワークキャンプの現場には、都会暮らしの学生が日常体験しない生活環境がある。そこでの活動から地域が抱える課題や社会問題をじかに感じとり、多くを学ぶ。ボランティアの根幹を「自ら感じ、考え、主体的に動いた結果が社会的課題の解決につながっていくこと」と考える名賀さん。学生たちの共感を深めるプログラムを示し、共に考え、育てていく。

 「地域福祉の基本は地域住民が主体になることだと思いますが、高齢化や過疎などで取り組みが難しい場合、外部の若者の『学ぶ力』を活用しながら、自分たちの福祉を向上させることができるのではないか。こうした若者の活動があちこちで起こればいい。その種まきをしたいです」

 5年目に入って、今月16日は日帰りで地区行事の準備手伝い、来年2月は泊まり込みの雪かきだ。ワークキャンプは続くが、「学生たちは卒業などで入れ替わっていけばいい」という。

 「過疎、高齢化に限らず社会にはさまざまな問題があります。学んだことを糧に、各自が共感できる課題を見つけて向き合っていってほしい。一人ですべての問題は担えないが、多様な活動をする人が増えれば社会を変えられるかもしれません」