ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

病院ボランティアの要
生活者の視点で接する

 

岡下 晶子(おかした あきこ)さん



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活動の場になるサロンの一角で。岡下さんはボランティアの一番大事な役割を「自然にそこに居ること」と言う(薬師山病院)
 ガラス張りのサロンから、うっすら雪化粧した比叡山が見える。全国でも数少ない完全独立型ホスピス、薬師山病院=京都市北区大宮薬師山西町15、TEL075(492)1230=の平日午後。幾つものテーブルで患者さんや家族が静かに語らう。この日は週2回ある喫茶開設日。ティーサービスチームのボランティアが柔らかな笑顔で飲み物をサーブしている。

 病院には10代〜70代の52人がボランティア登録し、10チームに分かれて月に約20日ある活動を分担する。要になるのは職員の岡下晶子さん(43)。

 同志社女子大・音楽学科で学び、福祉に関心のあった岡下さんが、薬師山病院で勤めるきっかけは2001年にさかのぼる。当初はボランティアの一員だったが、06年に音楽療法士兼ボランティアコーディネーターに迎えられた。

 ボランティアは講座、面談、研修を経て活動を始める。ホスピスボランティアの心構えを指導するのは医療者や岡下さんら。患者の状況など医療現場の理解、守秘義務などのルール厳守、といった活動要件の一つに「喪失体験(大切な人を亡くした体験)から時間が経っていること」があると言う。喪失体験を契機に活動を始める人は多い。体験は患者や家族に寄り添う大きな力になるというが「悲嘆が強い時期は対患者さんの場面で悲しみが増幅され、本人にも患者さんのためにもよくない」。

 ホスピスボランティアは社会の風を院内に届ける人。医療者だけでは生み出せない空間や時間を作る。「コーヒーの香りが漂い、好きな音楽に包まれ、医療者でも身内でもない人と雑談する─。そうしたひと時は、『患者の○○さん』として過ごす時間が多い中で、病気以外の自分を取り戻し、安心やくつろぎを感じられると思います」と言う。

 ボランティアの立ち位置には、普通の生活者の視点がある。喫茶メニューに患者さんの希望を取り入れたい、季節を感じる工夫をしよう、手作り小物で癒やしたい…。隔月で開くミーティングはじめ機会をとらえてボランティアの意見を聞き、医療者や事務方の考えとすり合わせてより良いケアを目指す。院内全体を対象に年1回行なう、活動内容の要望アンケートからは、バーコーナーやナイトシアターが実現した。看護師からの相談でハンドメイドチームが患者さんの衣類の改良もする。患者・家族を支えるみんなが各自のポジションで発揮する力をつなぎ、「患者さんの人間としての充実した生活を深める」のが仕事だ。

 音楽療法士としては週に1回、患者さんの希望に応じてピアノを弾く「音楽に親しむ会」を開いている。かつて、病室でリクエストの唱歌を演奏した時、小さく口ずさんでいた男性は「人生最良の日や」とつぶやいたという。「音楽療法もボランティア活動も心のケアにかかわるのは同じです」

 勤めて7年。ボランティアの意識も医療を取り巻く環境も変化してきた。「課題は変化を把握し対応していくこと」と言い、「医療現場専属のボランティアコーディネーターは雇用面で優先順位が低くなりがちですが、多くの病院にもっと根付いてほしい」と願う。