ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

児童虐待ない社会へ
母親の孤立感和らげて

 

松村 睦子(まつむら・むつこ)さん



 2011年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は5万9919件(厚生労働省調べ)。00年に児童虐待防止法が施行されたが、相談件数は統計をとり始めた1990年度(1101件)から一貫して増加が続く。

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事務所を開けている月・水・金曜日は、事務処理に忙しい松村さん(子どもの虐待防止ネットワーク・しが事務所)
 滋賀県には、児童虐待にかかわりがある領域の専門家と市民でつくる「NPO法人子どもの虐待防止ネットワーク・しが(略称キャプネス)」=大津市馬場1丁目11の4、TEL 077(525)9680=がある。発足は02年5月。専門家、行政、民間団体の連携で児童虐待のない社会を目指そうと、活動を続ける。応援する市民も加入し会員は発足時の倍の約180人。事務局次長の松村睦子さんは、当初から事務業務を担当し、全般の調整と会の窓口を務める。

 活動は、市民啓発のための講師派遣や、講演会・講座の開催、県内に2カ所ある子ども家庭相談センター(児童相談所)へのボランティア派遣が主になる。

 臨床心理士や弁護士、家庭児童相談員といった専門家を登録し、県内各地に派遣する講師派遣事業は、県の委託を含め年間50件程度の依頼がある。

 ボランティア派遣は現場支援事業の一つ。キャプネス主催の研修を受けた人が登録され、センターに併設された一時保護所で職員の補助をする。現在15人ほどが活動し、11年度は計108回派遣した。ボランティアの養成講座は毎年開催しており、今年は7月7日に近江八幡市内で開く。このほか、子育て支援のため、子どもを怒鳴らずにしつけるプログラムを取り入れ、援助者を育てる取り組みもしている。

 松村さんは個々の事業に立ち会うことが多く、一時保護所に自身がボランティアで入る場合もある。「明るく振る舞う子もいれば罵声を浴びせる子もいる。触れられることを恐れる子どもや、抱っこしてほしくても言えない子もいます」。「接し方のルールは守らなくてはなりませんが、考え過ぎず自然に接するようにしています」

 統計では、虐待するのは実の親が大半を占め母親が最も多い。

 青森県出身の松村さんは結婚を機に滋賀県に移ってきた。地域に溶け込み、PTA連合会会長を務めたこともある人だが、育児に悩んだ日もあった。「子育て最中は、一人ですべてを担わなければならないと、追い詰められた気持ちになった。後で考えれば、あんなことでと思うことに神経質になってしまうんですよね」。3人の子どもを育てた実感から、子育て期の母親の孤立感に思いを寄せる。

 「近所のお母さんに出会ったら声を掛けるとか、街で子どもを叱っている光景を見かけたら『お母さんの方も大変ね』というまなざしを向けるだけでもいい」と言う。見守り支援する地域社会をつくることは、母親の孤立感を和らげ、虐待を未然に防止する手だての一つだと松村さんは思う。

 オレンジ色のリボンを児童虐待防止の象徴にした全国的な活動がある。キャプネスも折々にオレンジリボンキャンペーンを行い、松村さんも街頭に立つ。「7割くらいはチラシを受け取ってくれる」と笑顔を見せ、理解の広がりに期待をかけている。