ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

ボランティア活動の橋渡し
いろんな力組み合わせて

 

古澤 千歳(ふるさわ・ちとせ)さん



 ボランティアコーディネーターの古澤千歳さん(49)は、現状を楽観視もしないがあきらめもしない。  一般社団法人京都ボランティア協会=京都市下京区河原町通五条下ル「ひと・まち交流館京都」1階、TEL075(354)8714=の職員となったのは2004年。ボランティア活動の支援をし、手助けを求めている人と結びつける仕事を担う。

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協会主催の発声ワークショップ。「電話対応では声の表情が大切だから」と、事務局を務めつつ受講する古澤さん(京都ボランティア協会)
 依頼者は京都市域の在宅の高齢者、障害者が大半を占め、ここ数年は年間100件ほど。そのうちボランティアを紹介できるのは「半分くらいです」と古澤さん。12年度の依頼総数は112件あった。対し紹介件数は56件(延べ73人)。協会のボランティア登録者は114人と前年度に比べて3割ほど減った。今年度は継続登録者が少なく60人からのスタートになった。

 依頼は電話で入って来る。外出介助、話し相手、家事援助やパソコン指導など多岐にわたる。家族やケアマネジャーなど専門職からの問い合わせがほとんどだが、「在宅の場合、親の依頼であっても必ず本人に会いに行く。本人の希望や周りの協力態勢を確認し、当事者とちょっとでも信頼関係をつくっておきたいから」。「コーディネーターは依頼者とボランティアの双方を尊重しマッチングを探る立場ですが、私は少し依頼者寄りかもしれませんね」

 可能な限り依頼希望に添うよう、登録ボランティアだけでなくホームページやチラシで一般にも呼び掛ける。社協やNPO団体にも当たるが、不足は否めない。

 「社会資源の活用をといわれますが、無尽蔵にあるわけじゃない。介護保険などの制度にもカバーできないことはあり、制度が適用されない人もいる」「地域で見守りをといっても、近所付き合いのない人が困っていたら? 新参者は?」「遠方に出向くボランティアももちろん必要だけれど、ごく身近で、お互いさまの気持ちでの活動ももう少しあったらいいのに」

 これまで千人以上の依頼当事者と会って話してきた。さまざまなケースに接して見えてきた矛盾や課題は多い。「制度だけで人は幸せになれない。これからは制度、地域、ボランティア、有償サービス、家族と、もろもろの力をどのように組み合わせていくかでしょう」

 古澤さんは、京都の大学卒業後、会社勤めをしつつ福祉にもかかわり、現職に。自身のボランティア初体験は高校生の時だった。郷里、岐阜県内の病院で重篤な子どもの話し相手を務めたが、どうしていいか分からず立ちすくんでしまった。結局、掃除担当になり、悲しく悔しかった思い出がある。「ボランティア活動を必要以上に大層に考えることはないです。適度な距離感を保ち、監視でない見守りができればうまくいきます。自分の興味のあることで始めてほしい」

 9年間、多くのボランティアたちを見てきた。母子家庭で高校受験を控えた子どもの家庭教師を引き受け、数年間教え続けた若者。一人親家庭の小学生の遊び相手を務め、担当を離れても家族ぐるみの交流が続く人…。「人ってすごい。人って捨てたものじゃないですよ」。古澤さんは巡る思いをかみしめるように言った。希望が光るような穏やかな笑顔だった。