ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

障害者の絵画展を企画・運営
人間の豊かさと本質感じて

 

奥山 理子(おくやま・りこ)さん



 4年前の春、奥山理子(りこ)さん(27)=亀岡市=はパリ・モンマルトルで開かれた美術展の会場にいた。日本の障害者が創作した絵画や彫刻、陶器などの作品千点近くが広い会場に並び、パリ市民の魂を揺さぶった。職員として勤務する知的障害者支援施設「みずのき」(亀岡市河原林町)の絵画活動は高い評価を受けていたが、残念ながら、この展示会には出品されていなかった。「日本でも障害者の作品を常時、展示できる美術館がどうしても必要だ」。同行した滋賀県の福祉関係者らと意見を同じくした。

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真っ白な壁面に作品を直接、とめるように展示する。「来館者にじっくりと鑑賞してほしいから」と奥山さん(亀岡市・みずのき美術館)
 この作品展は「アール・ブリュット・ジャポネ展」。アール・ブリュットは1960年代にフランスから起こった芸術活動の考え方。障害者や社会の片隅で生きる人ら専門の美術教育を受けていない人たちが純粋な発想で生み出した作品を認め合い、広めていく活動だ。近年、日本でも関心が高まり、とくに滋賀県は全国に先がけた活動を展開している。国も来年度予算から芸術の一分野として支援を拡充するようになった。

 奥山さんが企画・運営を担当するアール・ブリュットの拠点「みずのき美術館」は、フランスでの美術展から2年後の2012年10月にオープンした。高知(藁工ミュージアム)、広島・福山(鞆の津ミュージアム)に次ぐ開館だった。場所はJR亀岡駅に近い北町商店街の一角。元理髪店だった2階建ての古い町家を改装した施設だ。

 奥山さんは言い切る。「アール・ブリュット美術館は、障害のある人の作品が素晴らしいことを見てもらう場ではなく、障害のあるなしに関係なく、人間の豊かさ、人間の本質を、作品を通して感じてもらうこと」と。

 それだけに、施設にも展示方法にも強いこだわりを持つ。壁面は白色で統一し、天井の木製の梁はむき出しのまま。大半の絵画は額縁を使わず、壁面に直接、とめるように展示している。数カ月に1回、作品を入れ替えるが、作品の選択はもちろん、展示方法も自然光などを考慮しながらミリ単位で作品位置を調節する。「訪れた人が作品の鑑賞に集中できるように徹底し、一切、妥協しません」

 これまでにリピーターも含めて5千人ほどが訪れた。「ここに来ると、気持ちが真っ直ぐになる」「自分と向き合うことができた」。そんな入館者の声を聞くと、奥山さんはさらに充実した美術館にしようと、勉強と工夫を重ねる。

 京都市西京区出身。母親が施設長を務めるみずのき(2000年に旧「みずのき寮」を改称)には、中学時代からよく訪れた。この施設では1964年から日本画家西垣籌一(ちゅういち)さん(2000年死去)の指導で、入所者たちが余暇活動の一環として絵画制作を始め、今では1万8千点が施設に保管されている。「1点も散逸した作品はない。どの作品も、多くの人の目に触れてほしい」と愛情を注ぐ。

 忘れられない思い出がある。西垣さんが亡くなる1週間前、母と病室を見舞った。初めての西垣先生との出会い。握手すると、うなずき返された。何かを頼まれたようにも思えた。「この美術館が誕生して、先生も喜ばれていると思う。先生のご苦労に報いるためにも、これからです」。今年は施設の絵画制作が始まって50年。次から次へと、構想が浮かんでいる。