ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

喫茶室・学校建設・放送番組
地域密着型掲げ奮闘

 

石田 憲次(いしだ・けんじ)さん



 京田辺市松井ケ丘。半世紀ほど前に開発された大規模住宅地域(約800世帯)だが、今は高齢者が目立ってきた。この地域の住民を中心につくるボランティアサークル「コスモス」の代表が石田憲次さん(72)だ。「地域密着型のボランティア」を掲げ、活動の輪をどんどん広げている。

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参加者一人ひとりの体調などを把握して、優しい目を注ぐ石田さん(京田辺市・九十九園)
 コスモスの活動の拠点が、同地域の近くに建つ介護老人福祉施設「九十九(つくも)園」。毎週月曜の午後に「喫茶コスモス」が開かれる。石田さんの呼びかけで1980年に始まった名物行事で、市内の独居老人らも駆けつける。「お年寄り一人ひとりの健康状態に合わせて応対する」を心がけ、例えば、歯の悪い人、高血圧や糖尿の人らへの食べ物の配慮など欠かさない。

 「会場で流す音楽や飲み物、カーテンの開け具合などもお年寄り目線で選んでいる。最初のころは途中で席を立つ人もいたが、今は最後まで喫茶を楽しんでくれる」。今では「青い山脈」で始まり、「リンゴの唄」で終わる2時間余は歌あり、おしゃべりあり、ゲームありの和みのひと時になっている。「わずかばかりの参加料を頂いている。参加者が奉仕してもらっている意識よりも、主体的に楽しむ気持ちが生まれ、かえって長続きしてきた」と振り返る。

 元は大手電機会社の技術者。38歳で脱サラし、地域内に電器店を開いた。「徹底的に修理して直す」をモットーに地域内を駆け巡った。次第に信用もついてきた。だが、自宅でのカラオケブームのころは困った。「音痴を自認していたが、マイクの販売では客の前で歌ってマイクを選んでもらう必要があった」。人一倍の凝り性─という石田さん。さっそく民謡の先生の下に通う一方、お酒は弱いがスナックに開店と同時に入り、歌の練習を続けた。そのかいあって、歌は上達。商売に生かすだけでなく、地元のお年寄りにも楽しんでもらおうと、九十九園での奉仕活動につながっていく。園のカラオケ大会では、マイクを握る常連だ。

 9年前の夏、石田さんはサークル仲間5人とラオス北部の小さな村にいた。コスモスが資金を提供して建設された学校の完成式。村人から感謝の言葉を次々と掛けられ、「これで、一つの夢がかなった」と涙が止まらなかったという。九十九園での活動だけではマンネリ化すると取り組んだラオスでの学校建設だった。

 学校はコンクリート製で、1校建てるのに100万円以上必要だが、これまでに5校建設した。建設費はコスモスの地道な活動から得た資金や寄付などで賄った。「学校1校分の寄付を寄せてくれた松井ケ丘のお年寄りもいた。地域に密着した活動が認められたようでうれしかった」と感謝する。

 昨年春から新しく取り組み始めたのが、団地に流れる有線放送を生かしたコミュニティー放送の番組づくり。コスモスの事務局長中村芙美子さん(70)がインタビューし、石田さんがカメラを回し、団地の話題などを取材、編集している。「体がいくつあっても足りない」と笑いながらも走り回っている。

 「地域が高齢化し、回覧が読まれなくなってきた。楽しく町の情報を知ってほしいと始めた。体が続く限り、どのボランティアも続けますよ」。ますます元気だ。