ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

点訳、要約筆記、高齢者支援…
活動の輪広げ寄り添う

 

佐野 とし子(さの・としこ)さん



 愛用のパソコンが自宅2階の一室に置かれている。「きょうも、たくさん来ているなぁ」。毎朝、メールのチェックを日課にする佐野とし子さん(70)=向日市。要約筆記グループ、点訳グループ、社協関係など関わりのある団体からで、返信の必要なメールはすぐに返す。「すぐに返信しないと、たまっていくばかり」と屈託がない。

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仲間と打ち合わせながら、映画に字幕を付ける作業をする佐野さん(中央、向日市福祉会館)
 北海道の出身。教員をしていた父親の仕事の関係で小学2年で向日市に移った。親の勧めもあって、福祉など社会事業を学ぶ大阪の大学に進んだが、就職はもともと好きだった理系の会社を選んだ。50代に差しかかったころ、自宅に届いた市の広報紙に目が止まった。「点訳講座の受講生募集」。「文章を書くのは好きだし、挑戦しよう」。1994年春のことだった。佐野さんがその後、広く、深く福祉とかかわるスタートだった。

 点訳は六つの点の配置で文字を表す。今はパソコンを使って市や社協の福祉関係の文章を点訳奉仕しているが、当初は紙に点筆で打っていた。「点筆の時は間違えば最初から打ち直すことが多く、大変だった」。そう言いながらも「点字は一人でもコツコツできるから楽しい」と。

 点訳が目の不自由な人たちの助けになるなら、要約筆記は難聴や中途失聴の人の活動を支える。市社協が催す要約筆記のボランティア講座を修了したころ、社協から「ぜひサークルを作って、活動を続けてほしい」と要請された。持ち前の行動力を発揮、仲間6人とともにサークル「フレンド」を立ち上げた。20年前のこと。今も講演会や映画上映などで依頼があれば、3人1チームで活動している。

 要約筆記関係では全国組織の関西ブロック長の要職を2年間引き受け、京都府の要約筆記サークル連絡会の会長職は3年目に入った。「要約筆記の奉仕員を養成する国の制度が変わり、その対応など難しい問題もある。でも、困っている人を支えたい、その環境をよくしたい─その気持ちだけ」。向日市社協地域福祉係長の木下博史さんは「あまり細かいことにこだわらず、自ら汗をかいてまとめるタイプ。責任感の強い方です」と頼る。

 16年前に亡くなった父がぽつりと言った。「とし子がようやく、大学で学んだ社会事業の活動をしてくれた」。高齢者の通院や散歩の補助、デイサービスの手伝いにも活動の輪を広げ、弱い立場の人に寄り添った。そのことを父は見て、喜んでくれていたのだと振り返る。

 8年前の3月、当時住んでいた自宅が昼火事で全焼した。出火の原因は特定できなかった。「どうしたらいいのか」。途方に暮れている時、日ごろ、佐野さんの支えを受けているお年寄りや障害者、また、福祉関係の仲間が次々と声を掛けてくれた。おにぎりの差し入れ、「よかったら使って」と生活用品を届けてくれた。「あの時は全てを投げ出したい気持ちだった。立ち直れたのは、周りの支えがあったからこそ」と心から感謝する。

 小さな手帳はスケジュールで真っ黒だ。市社協の理事、市内のボランティア連絡会会長、民生委員の活動も5年目に入った。「暇になった時が死ぬ時」と割り切り、「私にはいろんな福祉活動をしているのが似合っている」。同じ市内に住む3人の孫と過ごす時間が活力源になっている。