ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

高齢者家庭にお弁当
地域に恩返し 心届ける

 

花田 隆亘(はなだ・たかのぶ)さん



 木津川市の元銀行マン、花田隆亘さん(76)の今の活動舞台は山城保健センター=同市山城町=だ。国の史跡になっている椿井(つばい)大塚山古墳のそばにあり、市社協山城支所にもなっている。「きょうのメニューも、季節の野菜を生かしたおいしそうな料理だね」。仲間たちとの会話が弾む。配食ボランティア「ほのぼの会」の会長を務め、高齢者家庭に料理を届ける活動を担当している。

写真
「配達の夕食が楽しみでね」と門口に出て待ってくれる高齢者と気軽にあいさつを交わす花田さん(中央、木津川市山城町平尾)
 旧山城町椿井地区の生まれ。高校を卒業して勤めた近畿地方を地盤とする銀行では転勤の連続だった。片道2時間以上かけて通勤したことも。朝6時半に自宅を出て、戻るのは夜10時を回る。家には寝に帰るだけだった。若いころは土曜日も仕事。それでも、山城の豊かな自然と人の温かさは、苦しくても頑張れる活力を与えてくれた。「町のことは何もしていない。いつかは町に恩返しをしなくては」。常に頭にあった。7年前、「もう退職したんやし、ほのぼの会の活動を手伝って」と町社協の幹部に声をかけられ、「私で役に立てるなら」と快く引き受けた。

 山城町の配食サービスには伝統がある。まだ高齢化社会がさほど話題になっていなかった1981年から始まった。毎週月〜金曜の昼食と毎週水曜の夕食を、事前に申し込みのあった高齢者宅に配達してきた。現在、昼食(自己負担500円)は10食、夕食(市の補助で自己負担300円)は45食の注文があり、昼食は町内の障害者施設に調理を委託し、夕食はほのぼの会の女性メンバーが中心になって調理している。

 「お弁当、持ってきました」。配達はペアで回り、玄関まで出て来られない高齢者には、台所まで運ぶ。「夕食は出来たてを届けますから、温かくておいしい、と好評です」と、30年以上に及ぶ配食サービスの重みを感じる。3年ほど前、いつものように配達していると、住人の男性が台所で倒れていた。「病院に運ばなければ」。すぐに救急車を呼び、社協にも電話した。社協からは登録されていた親族に連絡を入れた。男性は一命をとり止めた。「ただ、弁当を届けているだけではない」と、身につけた「見守り隊」のバッジに目をやった。

 山城町は2007年3月、隣接の木津、加茂両町と合併し、木津川市になった。市社協は旧町単位で支所を置き、それぞれに会長もいる。実直な活動ぶりと温厚な性格は周囲の信頼も厚く、2年前に旧山城町地域の社協会長に推された。木津川市社協の副会長の重責も併せて担い、同市の福祉向上の欠かせぬ存在になっている。市の中心部にある市社協の本所にも度々訪れる。「児童、高齢者、障害者の福祉は、どれもますます重要で、地域の特性を生かした施策が大切」と言い切る。配食サービスも旧町単位で実施し、メニューだけは統一しているが、運営などは独自に進めている。「旧町ごとに持ついい面が出れば、利用者にも喜んでもらえる」と期待する。

 弁当の配達は人との出会いの場でもある。「今年も、お弁当ありがとうございました。来年も、よろしくお願いします」。毎年暮れになると、達筆のお礼の手紙をくれる高齢の女性もいた。「心から喜んでくださっているのだと思うと、本当にうれしい。銀行員時代には味わえない幸せですね」