ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

もがき苦しんだ体験糧に
薬物依存の女性支援

 

小島 典子さん(こじま・のりこ)さん



 「依存問題を抱える女性の回復の姿」と題したセミナーが9月末、京都市下京区で開かれた。薬物依存者の回復と社会復帰を目指すNPO法人「京都ダルク」が主催し、あいさつに立ったのが小島典子さん(37)=同市伏見区。「こんな人生なら死にたいと、薬物を使い始めた。ダルクを知り、今では笑えるまでになった。周囲の人たちに感謝の気持ちでいっぱい」。約110人の女性たちの前で語りかけた。小島さんは京都ダルクのスタッフであるとともに、京都ダルクが運営する女性ホーム「ワイオリ」の責任者。女性たちに温かい目を注ぐのは、自身が薬物からの解放にもがき、死も覚悟するほど苦しんだ体験からだった。

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仲間と打ち合わせをする小島さん。女性たちの回復を願い、忙しい日々を送る(京都市伏見区・京都ダルクのリハビリ施設)
 三姉妹の次女として栃木県の地方町に生まれた。大企業のサラリーマンだった父親は普段は優しかったが、酒が入るとひょう変し、小学高学年になるとよく殴られた。次第に心がすさんでいき、高校は中退。東京に出て働いたり、高校に入り直したり、落ち着かない生活が続いた。自宅にはほとんど寄りつかなかった。「一回ぐらいなら大丈夫」。友人から勧められていた薬物は強く断っていたが、一度、使い出すと、のめりこんだ。22歳の時。みるみるうちに体重は減り、20`を切った。3年ぶりに帰ったわが家。娘の姿を見て、母親は驚がくし、隣県にある茨城ダルク「今日一日ハウス」に相談した。「この時、初めてダルクとつながった。きょう一日、薬を使わない、という意味を込めた施設だったが、なかなか止められなかった」という。

 全国に組織のあるダルクは薬物依存者の回復を支えるため、男女別に共同生活ホームを設立しているが、女性のホームは現在も10カ所未満と少ない。覚せい剤や大麻、危険ドラッグなどのほか、市販の睡眠薬や精神安定剤で薬物依存になる女性も少なくないという。「男性に比べて、問題が表面化しにくい面がある」とみる。福岡・博多の女性断酒施設などにも入所し、薬物と闘いながら回復を目指した。体調は徐々に良くなり、地元栃木に開設された女性ハウスの運営にも8年間携わるまで回復した。

 2年前の4月、小島さんは再出発のため栃木から車で母親らと京都に向かった。「京都は中学生の時に修学旅行で訪れただけ。知り合いもいないし」。不安は募ったが、栃木で女性ホームを運営した実績を買われ、京都初の女性ホーム「ワイオリ」の責任者として招かれた。ワイオリはハワイの現地語で「喜びの源」の意味。自分が名付けた。

 開設して2年、定員6人のホームは常に満員状態。入所者は、昼は京都ダルクが運営するリハビリ施設(伏見区)で、自分の人生を振り返りながら気持ちを整理していくミーティングを続ける。普段は男性とともにミーティングを行うが、小島さんの提案で週1回、断酒を目指す女性団体とのミーティングを企画した。「女性同士だから分かり合える悩みも多い」という。個人的な悩みにも自分をさらけ出し相談にのる。薬物依存に悩む女性や家族らからの電話相談も後を絶たず、体験などをもとにアドバイスする毎日だ。

 「薬物に悩む女性が安全に安心して過ごせるホームにしたい。自立した時の支援の輪をもっと広げていきたい」。先を見据えて動き回っている。