ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

病院と連携 就労へ支援
働く喜び 分かち合いたい

 

川島 章(かわしま・あきら)さん



 洛北岩倉の実相院そばに建ついわくら病院。その敷地の一角にある平屋の建物が就労継続支援B型施設「いきいき・いわくら」だ。「作業内容は多種多様。利用者一人ひとりが作業を通して長所を伸ばし、働く力を身に付けてもらう工夫をしている」。施設の代表を務める管理者の川島章さん(33)は強調した。B型施設は、障害者が一般企業などで働くための技能を身に付ける訓練施設とされ、入所者と雇用契約を結ぶA型施設とは区別される。

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「きっちりとした仕事で入院患者に喜んでもらい、それが施設の利用者の働く喜びにつながる」と川島さん(中央、京都市左京区・いわくら病院)
 この施設は、精神病を患う患者らが入院、通院しているいわくら病院を運営する医療法人「稲門会」が2011年10月に設立した。患者に規則正しい生活を通して社会復帰を目指してもらおう、との願いだった。医療法人がB型施設を運営するケースは珍しいという。現在の利用者は20代から60代までの20人で、左京区や上京区内などから徒歩やバスで通勤している。「いわくら病院だけでなく、近隣の精神科のある病院、クリニックから通所する人もいる。みなさん、病気を治療しながら通っておられ、常に各病院の主治医と連絡を取るようにしている」。体調面には注意深く配慮する。

 滋賀県高島市出身。京都市内の大学で経営学を学び、県内の大手菓子製造会社に就職したが、大学卒業間際に知った精神科の病気が頭から離れなかった。「毎年3万人もの人が自殺している。労働を通して情緒不安定になる人も多い。何か、救うお手伝いはできないか」。会社を辞め、専門学校に入り直して、精神保健福祉士の資格を取得した。病院ではしばらく外来患者のデイケアを担当していたが、法人がB型施設を造るにあたって、スタッフとして請われた。施設内で一緒に働く女性職員は「若いけど入所者、職員それぞれの立場に立って配慮し、全体が把握できる。近隣への目配りも欠かさない」と評価する。施設の周辺は住宅街が広がり、パン販売や生協商品の仕分け作業などを通して住民との交流に努める。

 「シーツのしわをきっちりと延ばして」。契約病院のシーツ交換や病室清掃。利用者と一緒に出掛け、「少しでも気持ちよく療養生活を送ってもらいたい」と気を配る。一方で、福祉団体など外部との交渉や新しい仕事の確保などに走り回る日々だ。「私自身が仕事を楽しんでやらなくては、利用者も楽しめない」。季節のレクリエーションの企画も怠らない。各地で開かれるバザーにもよく店を出し、施設で制作したガラスのイヤリングやピアス、写真立てなど自主作品を並べる。「もっとお客さんの立場になって呼び込みをしなくては」。年配の利用者から教えてもらうことも多く、「人生体験の豊富な人にはかなわない」と謙虚だ。

 以前、「精神病の人は怖い」との言葉を掛けられた。まだまだ偏見は残る。「そうした偏見をなくすためにも、畑仕事など外で行う作業をもっと取り入れていきたい。みんなで安全でおいしい野菜を作って売ることで、患者への見方は変わる」

 給料は時給制で、設立時に比べると1時間当たりの単価が100円上がった。「給料が上がることが働く励みになる。働く喜びを利用者、職員みんなで分かち合いたい」。私生活ではこの4月に結婚し、公私ともに充実。京都市左京区在住。