ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

不登校相談の場提供
話して元気 育む仲間意識

 

桑井 登志子(くわい・としこ)さん



 綾部市中心部の高台の建物に「つどい館」の看板が掛かっている。「ここが私たちの活動の拠点です」と言うのは、この建物の所有者で、綾部展望の会代表の桑井登志子さん(60)=同市神宮寺町。同会は不登校の子どもらを抱え、悩む母親らに集う場を提供し、支える活動を続けている。「不登校の原因を探ったり、結論や答えを出す場ではない。体験を話し、聴くことでお母さんたちが少しでも元気になってもらえれば」と活動の狙いを話す。

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綾部展望の会の仲間たちと打ち合わせをする桑井登志子さん(左)。「お母さんたちが元気になってもらえば」と心を寄せる=綾部市神宮寺町・つどい館
 4月の相談会。「中学生の娘が学校からこんな通信簿をもらい、見せてくれた」。参加した1人の母親が笑顔で全員に披露した。不登校の子どもの通信簿は「1」か「/」のケースがほとんどだが、この通信簿にはハナマルマークに「大変よくできました」と記してあった。学校側の配慮がみてとれた。クラスメートたちが作った終業式の招待状も届けられた。「子どもも親も、学校の対応で大きく変わる。この中学生は今は元気に通学している」と桑井さんは喜ぶ。

 福井県美浜町出身。結婚で綾部へ。生命保険の外交の仕事をしているなかで、顧客の親から不登校の子どもを抱える悩みをしばしば聞いた。「何かお役に立てることができないか」。PTAや町内の役職など持ち掛けられれば、断れないボランティア精神おう盛な性格。隣接の福知山市に展望の会があり、積極的に参加した。「綾部にも展望の会を設立することになり、是非、協力してください」。自筆の手紙を30人ほどの知り合いに送った。一方で、所有している空き家を建設業の夫の協力を得て改装し、相談会の会場「つどい館」にした。

 活動を始めたのは2006年9月。協力者は当初、4〜5人だったが、今では10人以上が会を支える。元小学校教師(62)は「桑井さんはエネルギッシュで世話好き。人脈も広い。素晴らしいリーダー」と話す。活動は月1回の相談会をはじめ、必要な場合は専門家や医師を紹介、子どもたちを交えたクリスマス会や流しそうめん、もちつき大会なども企画している。広く市民を対象に子育てや教育の講演会も開催した。

 昨年秋、会員たちはライブと大学教授の講演会を企画した。「どうしても招きたかった」というのが若者3人のロックバンド「ジェリービーンズ」。滋賀を中心に活動する元不登校のグループだ。手持ちの資金では足りず、手分けして市内の企業や個人から協賛金を募り、開催にこぎつけた。「学校へ行かへんって死ななあかんほど悪いことか、と親が不登校を認め、どこまでも信じてくれた」などと若者たちは演奏の合間に語り、会場は感動の渦だったという。イベントを積極的にリードした桑井さんは「相談会に参加し、今は都合で引っ越したお母さん方が九州や京都からも戻って協力してくれた。相談を通して仲間意識が育まれている。うれしかった」と振り返る。

 不登校になる子どもは大都市ばかりでなく、地方でも状況は同じだ。「地方ほど親のプレッシャーは大きい。近所や親戚の視線もある」といい、「この相談会に来るのも親によってはハードルが高いが、一歩を踏み出してほしい」。3人の子どもを育てた母親。若いお母さんと子どもたちを見る目はどこまでも優しい。