ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

自慢の子たちと訪問演奏
褒めて育てる音楽教室主宰

 

山岡 笑子(やまおか・えみこ)さん



 湖南市で活躍するボランティアグループ「ティンカーベル」は、昨年度、同市社会福祉協議会から高い功績が認められ表彰された。小学生から高校生までで構成する子どもミュージックボランティアだ。市内を中心に福祉施設や病院などを訪問し、「演奏を聴いた人たちに喜んでいただけるのもうれしいが、音楽の練習を重ねながら、お互いに助け合うなどきっちりとした生活態度を身に付けた子どもたちを訪問先で自慢したい」。同市内で音楽教室を主宰しながら、グループを指導する山岡笑子さん(55)は子どもたちに絶対の信頼をおく。この教室での学習を通して、引きこもりから立ち直った子どももいるという。

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精力的に練習を指導する山岡さん。訪問先で喜んでもらい、子どもたちが真っすぐ成長するのが楽しみだ(湖南市近江台)
 京都市南区出身。2歳から親の勧めでピアノを習い始め、厳しい指導を受けてきた。「こんなんではあかんやろ」。叱責(しっせき)とともに手をたたかれることはたびたびだった。指導者は何人も変わったが、指導方法に相違はなかった。「練習が嫌で嫌でたまらなかった。子ども心にも、努力している姿を見て褒めてほしかった」と振り返る。結婚とともに湖南市に。2人の娘にも恵まれ、落ち着いたころから音楽教室を自宅で開いた。自分が幼いころに受けた指導方法を反面教師に「信頼関係を築き、褒めて育てる」方法で指導してきた。今では男女数人がフルートやドラムなどでプロの奏者としても活躍している。ボランティア団体「ティンカーベル」を設立したのは2004年11月。音楽を通して周囲の役に立とうとの思いから。多くの人たちから愛される団体にとの気持ちを込め、ディズニー作品「ピーター・パン」に登場する妖精から命名した。当初は、近隣の子どもを対象に広くメンバー募集し、初心者でも取り組みやすいハンドベルだけを使った演奏に取り組んだ。ところが「練習日に来ない」「基本的な約束事を守らない」「演奏会にならなかった。4、5年続いたが、あきらめた。でも、このままでは終われない…」。負けず嫌いの性格。自身が主宰する音楽教室の子どもたちに呼びかけ、参加者を募った。10人前後が名乗りを上げ、楽器もドラムやキーボードなども取り入れ、アンサンブルにした。

 住宅街にある山岡さん宅の離れ。防音設備の完備した部屋は普段は音楽教室生の練習場だが、月に1、2回はボランティアグループのメンバーが一堂に集まる。「キーボードはもっとリードする気持ちをもって」「だいぶ楽器の調和が取れてきたが、もっとうまくなって喜んでもらおう」。精力的な練習が延々と続く。自身はピアノを弾いたり、全身で調子を取ったり、休む暇はない。「1日で体重が2キロほど落ちる」ほどハードだ。「ふるさと」「見上げてごらん夜の星を」などどの会場でも演奏する定番曲には、涙を流すお年寄りもおられ、子どもたちも魂をゆさぶられるという。「ボランティア演奏に行くなら、一緒に行くから」。訪問演奏が楽しかったからか、卒業生からよくこんなメールも山岡さんに届く。

 音楽指導、訪問先との打ち合わせ、送迎方法など全て山岡さんが担当し、負担は大きい。「主人の理解にも感謝している。とにかく、死ぬまでいろんな楽しいことをやり続けたい」。屈託がなく、どこまでも前向きだ。長女はフルート奏者として活躍する。