ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

地域の人と力合わせ歩む
高齢者集うサロン開設

 

内藤 貞男(ないとう さだお)さん



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自分も楽しみ、見ている人にも楽しんでもらう。内藤さん流のマジックショーだ(栗東市観音寺・こんぜの里森遊館)
 「月のうち10日ほどは老人クラブ、趣味のマジックが10日、あとの10日はその他のボランティア、家庭のことはゼロですね」と笑うのは栗東市に住む内藤貞男さん(73)。市老人クラブ連合会事務局長など数枚の名刺を持ち歩きながら毎日、忙しく駆け回っている。

 そんな内藤さんだが、十数年前、半世紀近く勤めた会社を定年退職するにあたり、悩んでいた。「人に教えるほどの特技もないし…。これから何をすれば」。そんな時だった。地元の自治会長から「これからは会社をリタイアする人がどんどん増える。高齢者が集えるサロンを立ち上げてほしい」と頼まれた。縁あって40代の半ばから自治会の会計担当を長年引き受け、そのつながりから持ち込まれた相談だった。

 「人に頼まれたことは素直に引き受ける」という内藤さん。すぐに民生委員や健康推進委員ら協力者を募り、困った時には地元社協にも足しげく通い相談した。半年後の2003年9月に待望の「わくわくサロン」が誕生した。「たくさんの地元の人に集まってもらい、苦労した分、うれしかった。みなさん、こうしたサロンが出来るのを心待ちにしておられた」と当時を懐かしむ。サロンはその後、月1回、午前10時から午後3時まで開き、昼食付きで参加費300円。催しものには講演や健康体操、落語など毎回、工夫を凝らす。「サロンは続けることが大切。参加者が競争するような催しは避けるなど配慮してきた。何より多くのスタッフの協力があってここまでこられた」と、今はサロンマネジャーの立場で感謝する。来月、150回目のサロンを地元自治会館で開き、その準備にも追われる。

 老人クラブとのつながりも、自治会と切り離せない。「60歳になったら、老人会に入るものと思っていた」といい、定年とともに老人会に入会した。7年前、自治会の元役員から市老連の事務局長を頼まれ、この要職も引き受けた。「定年後の今の自分があるのは、若い時に自治会の役職を務めたからこそ。やっておいてよかった」と素直に振り返る。

 今年2月11日。同市のさきらホールには400人以上の観客が詰めかけた。マジックを趣味にする「栗東迷術(めいじゅつ)会」の12回目の公演会だった。メンバー14人が巧みな語り掛けとともに得意の奇術を次々と披露し、派手な舞台衣装で登場した内藤さんも観客の目と耳を楽しませた。「自分が楽しいことをやれば、人にも楽しんでもらえる」。この信念は変わらない。

 マジックとの出合いは12年ほど前、奇術の教室に偶然、参加したのがきっかけ。その時の仲間らと結成したのが栗東迷術会だ。2〜3人でチームを組み、年に計200回近く、市内外の福祉施設や地区の老人会などで奇術を楽しんでもらっている。月に4日は練習日に充てる。

 京都・西陣の機屋(はたや)に生まれた。50年代半ばには家業は傾いたが、「おやじは西陣では組合の仕事や人の世話などに走り回り、夜は家にいることが少なかった。人のお手伝いをする質(たち)はおやじ譲りかも」。中学卒業とともにオムロン(立石電機)に入社、主に草津事業所で働いてきた。結婚とともに引っ越したのが栗東市だった。「地域とのつながりを大切にしてきたのが、よかった。これからも地域の人と力を合わせて歩んでいきたい」