ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

笑いと元気を振りまく
夫婦で演芸ショー

 

中沼 克司(なかぬま かつし)さん、悦子(えつこ)さん



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鼻に古銭、そろいの衣装でドジョウすくいを演じる中沼さん夫婦。歩き方に年季が入る(滋賀県日野町)
 人に喜んでもらうことを、何より楽しみにしている夫婦が滋賀県日野町にいる。中沼克司さん(79)、悦子さん(77)だ。息の合った夫婦の漫才、師範格の腕をもつドジョウすくいなどで観客を魅了し、地域の人や各地のお年寄り、子どもたちに笑いと元気を振りまいている。

 「演芸の依頼があれば、必ず奥さんと一緒に行く」という克司さん。まず演じるのは、悦子さん手作りの派手な衣装を身にまとっての門付(かどつけ)漫才。尾張地方が発祥の伝統の漫才で、資料を取り寄せ、2人で独学で学んだ。「今年で結婚55年。夫婦ならではの間合いが漫才に染み込んでいる」と悦子さん。次は名取の実力がある悦子さんの新舞踊、克司さんの手品と続き、最後はまた2人で民謡・安来節に合わせたドジョウすくいで締めくくる。この間、約1時間。「最後のドジョウすくいで最高に盛り上がる。みなさんから頂く笑顔と拍手で疲れも吹っ飛ぶ」と2人。帰りの車中での反省も欠かさない。

 克司さんは日野町に隣接した旧土山町(現甲賀市)の出身。母親が長く助産婦を務め、「人のためになり、喜んでもらえることをするように」と常々、言われてきた。日野町出身の悦子さんと結婚してからも、地元の江州音頭や芝居のグループに入って活動したり、日本レクリエーション協会の資格も取った。「でも自分の考えているボランティアとはどこか違う。もっとみんなを楽しませたい」。そんな思いを持ち続けた。

 平成になってまもなく、地域の神社の神主仲間で島根・出雲大社にお参りに行った。その夜、ホテルで見たドジョウすくいに衝撃を受けた。「ひょうきんな動きとスタイル。これなら、みんなに喜んでもらえる」。早速、竹のザルやビク、踊りのビデオなどを買い求め、克司さんの熱心さに引かれた悦子さんとともに暇を見つけては練習を重ねた。肩を動かさずに、腰を前後させながらの歩行、ザルの上げ下げの角度など一つずつ学んでいった。2人で島根にも何度も習いに出かけた。

 ドジョウすくいは地元の安来節保存会が認定する資格試験が年1回あり、毎年、出かけては受けた。「多くの人に最高の芸を見せたい、その思いだけだった」。2人とも師範の資格をとり、克司さんは1989年に安来節全国大会で3位に入り、今では月2回、米原市でドジョウすくいの指導もしている。

 夫婦で演芸ショーをするようになった30年ほど前は2人とも仕事があり、出かけるのは休日に限られていたが、最近は時間を調整して滋賀各地や京都にも出かける。「同じ会場から2年、3年と続けて呼ばれることもあり、その年に何を上演したかをメモしている」と克司さん。手品の持ちネタを増やしたり、新しく南京玉すだれも取り入れるなど工夫を重ねている。数年前、ある病院で上演を頼まれ、寝たきりのお年寄りのために病室でも披露した。演じると、普段は無表情のおばあさんがニコッと笑顔を見せ、動かせなかった手を動かして喜んでくれたという。「人に少しでも元気を与えられれば、本当にうれしい」。演芸奉仕に打ち込む源泉にもなっている。

 「2人とも喜寿を超した。だれかが継いでくれれば」と期待しながらも、「2人で演じるのが私たちの売り。体が続く限り、頑張りたい」と口をそろえた。