ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

地域での「老後」を支える
自宅改装「宅老所」に

村田 美穂子(むらた みほこ)さん


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公職も多く、携帯には次々と電話が入る。「もう少し、ゆっくりとしたい」と言いながらも、利用者と気軽に話す村田さん(草津市駒井沢町・小規模多機能型居宅介護事業所「心」)
 少子高齢化でお年寄りが年々、増えていく現代。住み慣れた地域で、生き生きとした日々を最期まで過ごしてもらおう、との活動が各地で広がっている。13年前、自宅を改装して「宅老所」を開設した草津市の村田美穂子さん(66)はそんな活動の先駆者のひとり。「地域の人に、安心して年が取れる、と言ってもらえるのが何よりうれしい」と過去を振り返りながら喜びを語る。

 びわ湖岸近くの同市駒井沢町。旧家と新興住宅が混在する一角に「宅老所 心」と記された、かやぶきの民家が建つ。村田さんの生家で、1200万円以上かけて施設に大改装した。「昔ながらの普通の民家でお年寄りにくつろいでほしかった。利用者にとても喜んでいただいている」。この民家施設を原点に始めた介護事業は、今では近隣に二つの小規模多機能型居宅介護事業所を開設するほど大きくなり、地域になくてはならない存在になっている。

 滋賀県内の高校を卒業後、短大でデザインを学び、京都の呉服会社に勤めた。きもののデザインなどを担当したが、若くして管理職に抜てきされたことで人間関係に悩み、うつの症状に苦しんだ。そんな時に出会ったのが福祉関係に携わる人で、話していると気持ちが和らいだ。「この時が福祉を意識し始めた最初かもしれない」という。まもなく、大津の老人ホームに移り、介護の仕事を担当した。「働いているうちに、高齢になっても、障がいがあっても、家庭的な場所で仲間と過ごせるようにできないか、と考えるようになった」という。

 重複障害の人が暮らす県内の救護施設に勤めを代わり、本格的に福祉の勉強を始め、仕事を調整しながら大阪まで通学した。周囲からは「人と触れ合い、話をするのは天性のものがある」と言われ、カウンセリングの学習もし、介護福祉士の国家資格も取得した。「施設の入所者に収入を得る喜びを体験させてあげたい」と、若い時に培ったデザインを生かし、みんなで作った陶芸品などを販売した。JR大津駅前で開かれる江州音頭祭りには、手製の法被を着て、隣接の老人ホームの高齢者にも呼びかけて参加した。周りにいる人たちに喜んでほしい、とのサービス精神は旺盛だ。

 待望の宅老所がオープンしたのは2005年1月。経営母体のNPO法人「宅老所 心」の認可の際は定款作成や理事就任依頼など全て一人でこなした。介護保険事業所の指定も受けた。施設では近所のお年寄りが日中、通って昼食などを楽しみながら過ごしたり、宿泊する人もいた。08年からはこうしたサービスは二つの介護事業所に移し、スタッフが自宅を訪問、介護するサービスも始めた。現在、かやぶきの施設は定期的に開くカフェ・ランチや地域居酒屋として、住民に親しまれている。「母を自宅で最期まで世話できてうれしかったとか、話さなかった認知症の人が話すようになったと聞くと、宅老所を開いて本当によかった」と喜ぶ。95歳の母親と暮らす。滋賀県介護福祉士会会長。