ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

自立へ得意な才能伸ばす
若者に活躍の場提供

河田 桂子(かわた けいこ)さん


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「地域ともっと交流したいし、親の高齢化に伴うひきこもりの問題など、やりたいことがまだまだある」という河田さん(左)=京都市左京区下鴨梅ノ木町
 窓越しに比叡山が迫る京都市左京区下鴨の3階建て事務所。社会生活に不安のある若者を支援するNPO法人・若者と家族のライフプランを考える会の拠点だ。理事長の河田桂子さん=京都市中京区=は「まさか私がこんな風に福祉の仕事にかかわるとは思ってもみなかった」と振り返りながら、「人は生まれてから亡くなるまで、それぞれの役割がある。就職しなくても、その人なりの持つ才能を生かし、みんながいい人生を送ってほしい」と応援する。アート、IT、音楽−いずれかの技術を持っている若者たちに活躍の場を提供する。2年前には就労継続支援B型事業所「あーと・すぺーす 絵と音」も開設し、一味違った施設として注目をあびる。河田さんが若者支援に乗り出し、芸術やITにこだわるのは米国での体験が根っこにある。

 25年前、夫のニューヨークへの赴任に伴い、子どもたちと一緒に米国での生活を始めた。学齢期になった次男が現地の学校で学び始めたが、次第に学校になじめなくなった。「何で登校できないのだろう、どうしたらいいの」。悩みは深まった。そんな時、学校にうまく適応できない子どもたちを国で支援するチャイルド・スタディチームの支えを受けることになり、スクールサイコロジスト、ケースワーカーらが援助に乗り出してくれた。次男もしだいに元気に学校に通うようになった。「本当にうれしかった。米国では子どもたちは社会全体で育てていくもの、との考えが徹底している」という。援助してくれたスタッフの誘いもあって、米国にいる間、このチームで子どもたちの支援方法などを学ぶ機会に恵まれた。

 6年間の滞在後、帰国。「米国での貴重な体験を、社会になじめない若者支援のために生かしたい」と、国家資格のキャリアコンサルタントや産業カウンセラーの資格を取得した。40代半ばになっていた。京都でひきこもりの若者を支援する団体に入り、若者が自宅から出て、過ごせる居場所づくりなどを手伝った。ただ、居場所に来ても特別なことをすることなく、何年も過ごす姿に「力のある人たちがもったいない。自分の役割が見つけ出せる居場所を」と、2010年に設立したのが考える会だった。米国で河田さんの次男は得意な絵を周囲からほめられ、大きな自信につながった。「苦手な事の克服よりも、得意な才能を伸ばすことの大切さを知った」と話し、絵を描くこと、IT技術、音楽−に特化し、才能を生かした自立を目指すことにした。

 現在、20〜40代の男女約40人を受け入れ、施設では絵を使った葉書などの製品づくり、IT講座の指導など特技と社会貢献が一帯とな?た仕事を追求し、一方でビジネスマナーなどの学習や地域との触れ合いも大切にする。また、京都府や京都市の脱ひきこもり支援事業に参加しセミナーなどの開催を企画、障害者のライフプランづくりも手掛けている。

 「人は仕事も大事だが、その他の時間も大切。ワークバランスを心がけている」。4人の職員がいるが、退職した夫も最近、手伝うようになった。「お母さん、年を重ねるごとに元気になっている」。わが子からのほめ言葉に、にっこり笑った。