ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

まちの支え合い 幅広く
NPO母体に支援事業

谷 仙一郎(たに せんいちろう)さん


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3年前に移転したJR新旭駅前にある「たすけあい高島」の事務所。「少しずつ市民の認知度は上がってきた」と手ごたえを語る谷さん(高島市新旭町旭のショッピングセンター内)
 高島市で幅広く活動する福祉団体「NPO法人 元気な仲間」代表理事の谷仙一郎さん(51)=同市新旭町。前職はコンニャクの製造、販売を営む「谷仙商店」の3代目だ。昨年末で、昭和10年以来続いていた商店を閉めた。「以前なら法事の際には数十丁のコンニャクが売れたが、今はさっぱり。料理の内容が変わってしまった。思っていた以上に衰退のスピードが速かった」と振り返る。そんな谷さんが福祉に全力を注ぐようになったのはちょっとしたきっかけだった。

 「あんたも受けてみ」。注文のコンニャクを届けた得意先から「ヘルパー2級の養成講座が開かれる。挑戦してみたら」とアドバイスを受けた。2001年のこと。介護保険制度が始まって間もないころだったが、介護保険すら知らない時期だった。乗り気になれなかったものの、近江八幡市の会場まで合計20日間通い、資格を取った。この間に学んだことが谷さんを奮い立たせた。「近所同士が助け合っていた伝統的なコミュニケーションが薄くなり、お年寄りが増え、若者が減るばかり。介護保険があっても、それだけでは不十分。町民同士が支え合うまちをつくりたい」。思いは広がるばかり。一方、会員だった新旭町商工会(新旭町は05年合併で高島市に)では、商店街活性化の一環として買い物支援の事業を滋賀県の補助を受けて2年間取り組み、成果を上げていた。「この事業を継続させるとともに、街に助け合いの輪を広げたい」。商工会仲間とも相談して、03年8月に立ち上げたのが「元気な仲間」だった。

 その後はこのNPOを母体に次々と福祉事業をスタートさせた。デイサービス、ケアマネジャー事業、小規模多機能型居宅介護事業所、ホームヘルパー養成講座など高齢者向けの支援だけでなく、学童保育所、おやじ塾、男女の出会いから結婚、出産、子育てまで支援する「たかしま結びと育ちの応援団」、身体の不自由な人の通院や買い物を支援する福祉有償運送なども始めた。公共施設の指定管理者にもなった。とりわけ、10年から始めた「たすけあい高島」は念願の支え合いサービスで、困りごとのある住民を住民が助けるシステム。費用は1時間800円、昨年度は2039件の利用があった。「こんなに利用があるとは思っていなかった。少しは初期の目標が実現できたかなぁ」と喜ぶ。

 谷さんの名刺には「社会福祉士・介護福祉士・介護支援専門員(ケアマネジャー)」の資格が並ぶ。このほか、タクシーも運転できる2種免許、危険物取扱者の免許も持つ。「福祉関係の仕事は初めてで、基礎的な勉強をしたくて通信教育で6年かけて取った。2種免許や危険物取扱者は福祉事業を広げていきたいから。店は閉じたが、2代目の父も喜んでくれているし、頑張ってよかった」と話す。それでも、コンニャク作りの腕は衰えておらず、障害児を対象にした体験教室などで披露している。

 ある時、「たすけあい高島の制度があるのを知って、この町に引っ越してきた」と喜んでくれた母子家庭の親子がいた。保育園への毎日の迎えができなかったからだ。「私たちの事業を利用した人たちから、『助かった、ありがとう』と喜ばれるのが何よりもうれしい」。さわやか福祉財団(堀田力会長)のさわやかインストラクター。