ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

支える側の「心」を支える
アロマで介護ストレスを癒やす

小窪 紀枝(こくぼ のりえ)さん


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サロンでアロマオイルを調合する小窪さん。「限界が来る前に、メンテナンスとしてアロマを取り入れてみてほしい」と話す(守山市守山6丁目)
 リラクセーション音楽が流れる優しい空間で、一人一人に合わせてアロマオイルを調合し、ゆっくり体に触れていく。10年間介護士として働いた守山市の小窪紀枝さん(35)が開設した、アロマを使って心と体を癒やす「介護アロマサロンWai」。対象は、福祉に関わる支援者、介護家族やシニアたち。「支援する側とされる側、双方にストレスがかかりがちな福祉の現場に癒やしを」との思いがあふれる。

 介護福祉士の資格を持つ小窪さんがアロマに出会ったのは、東日本大震災後の災害ボランティアに参加したあと。現地では、被災者も支援する人も精神状態が普通でなく、ケアが必要な状況だった。だが、自分には介護のスキルはあっても、人の「心」を軽くするスキルがない。現地でも、地域に帰っても無力感に悩まされ、自分自身も癒やすことができないまま、心と体のバランスが崩れていった。

 「癒やしのスキルがほしい」との思いでメディカルアロマを学び、2015年9月に福祉の現場を支えるアロマセラピストとして独立、サロンを開業。アロママッサージを施術するほか、福祉施設にも出張し、癒やしについて学ぶワークショップなども催している。

 「介護現場には排せつの世話があり、認知症などのある人の場合は時に暴言や暴力も受ける。心が不快になるのは人間だから当たり前。ギリギリの状態で、少しでも目の前の人の生活が良くなるよう努力する」。介護現場でトラブルがあると心が痛むが、支援者が自らの心をコントロールする難しさも身をもって知っている。

 介護士として駆け出しの頃、高齢者虐待のニュースが流れると「けしからん」と思っていた。だが、被災地から戻って精神不安定な時期には、同様のニュースに「ドキッ」とする自分がいた。「このままでは私も」と不安がよぎり、人ごとと思えなかった。「暴力を受ける側は守られても、たたく人のケアはなされない。癒やしがない環境でたまりにたまったら、鬱(うつ)になるか虐待に走るか。たたくのは悪いと思っているのに止められず、自分を責める」。そんな心理状態が分かる。

 初めて震災の現場に行った時、食料や水など「身」を守る備えをたくさん持っていた。ただ、「心」を守る備えは持っていなかった。自分が何に癒やされるのか、どうすれば眠れるか―。アロマに出会い、頭で考えてしまう人や気持ちをコントロールしにくい人も、アロマの力を借りると肩の力が抜けてリラックスできることを知った。自分に合う香りがわかると、熊本の被災地でもぐっすり眠れた。「自分の心を守る備えを平時からしてほしい」。そのツールの一つとして、アロマを提案する。

 サロンには、介護者のほか、部下を持つ管理職ら大きな責任を背負っている福祉関係者も訪れる。ケアが必要とされる人を統括する仕事にもまた、厳しさがあるのだ。「我慢することが当然とされ、真面目な人ほど自分のことを後回しにしてしまう」。その現実に警鐘を鳴らす。支援する人が元気であることが、福祉の現場においていかに大切か―。重ねた経験と実感が、アロマの仕事の原動力だ。(フリーライター・小坂綾子)