ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

変化楽しめる“人材”育成
働きやすい仕組み整え学食運営

白M 智美(しらはま ともみ)さん


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消費者と従業員双方の立場に立ち、明日につながる学食運営ができているか目を配る白Mさん(京都市中京区・佛教大二条キャンパス)
 学生たちが集う佛教大二条キャンパス(京都市中京区)内の学食。明るくしゃれた雰囲気の店内で、精神や知的に障害のある人たちが忙しく動く。彼らは、就労継続支援事業所あむりたの利用者。学食全体を切り盛りするのは、事業所の施設長で精神保健福祉士の白M智美さん(36)だ。オープンから7年を迎えた学食運営のこだわりは、消費者目線。「障害者が一生懸命作ったという『情け』ではなく、納得して買ってもらいたい」との思いがある。

 オープン当初には、「福祉だから」と甘えの気持ちが少なからずあった。大切なことを教えてくれたのは、大学だった。学生目線の明確なアドバイスと、「われわれは消費者、その気持ちをくむ事業をしてほしい」との言葉に目が覚めた。「飲食事業を手掛ける団体として、教育の場に入らせていただいているのだ」

 商品やサービスそのものを気に入ってもらえる店づくり。そして、働く人が「明日も来たい」と思ってくれる職場づくり。その両立には柔軟な発想やバランス感覚が求められるが、重ねてきた経験が生きている。

 予期せぬ事態が起こりがちで「障害のある人には不向き」とも言われる飲食業。それでも「仕組みがあればできる」と確信する根っこには、学生時代の飲食チェーン店のアルバイトでの学びがある。仕組みが整った職場は、経験のない素人が入っても働きやすく、調理場の教育係としてコンテストで全国準優勝に輝くほどに成長した。

 「心」を保つ難しさも肌で知った。高校時代、勉強と部活で無理をして心身のバランスを崩し、その経験から精神保健福祉士となり医療現場で働いた。そこで疑問を持ったのは、社会生活にはさまざまな結びつきがあるのに、患者の支援について専門家が内側ばかりで議論していたこと。「閉じている」ように見えた。「外に出てどこかに所属したい、誰かに貢献したい、と思うのは当たり前の欲求ではないか」。病院外の就労支援チームに加わる中で多種多様な経営者と出会い、枠を超える発想が持てた。

 A型事業所である「あむりた」の利用者は「労働者」。それゆえ、大切にしているのは「誰からお金をもらっているか」という発想だ。会社を辞めさせられ、自分の正当性を主張するために会社を責める人もいるが、「労働契約を結ぶ意味合いがあやふやだと、雇う側が困る」。お金をもらって働くことの本質を、伝え続ける。

 職場では失敗もトラブルも起こる。だが、うまくいかなくても決して「人」を責めない。起こったことに対しどうすれば回避できたか考え、もやもやしている人とはその日に話し、次につなげる。「自分やお店の売り上げが変わっていく、その変化を楽しんでほしい」と願い、継続して雇用されうる“人財”に育てることに尽力する。

 「変化」のキーワードは、自身の生き方にも重なる。「新しいこと、器を超えることに挑戦し続ければ、自分の器が変わってくる」。時代の変化、日々の変化に対応できる組織であり、自分であり続けるために、歩みを止めない。

(フリーライター・小坂綾子)