ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

料理通じ「やりくり」伝授
障害児に生活算数教える

住山 志津枝(すみやま しずえ)さん


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料理教室で子どもたちに生活算数を教える住山さん(8月4日、山科区・京都市山科青少年活動センター)
 知的障害のある子どもたちが集う京都市山科区の調理室。講師の住山志津枝さん(43)の手ほどきで、火を使わず、電子レンジでミートソーススパゲティを作っていく。料理教室だが、単に料理の作り方を学ぶわけではない。ここでは、料理を通じて「お金」と「算数」を学ぶ。「お料理は、数を体感するための宝庫。そして、お金と料理はやりくりの観点でとても似ている。どちらも、『ほしいもの』(嗜好(しこう)品)が『必要なもの』(最低限の栄養)の範囲を侵さないようバランスを考える作業」。暮らす力を育みながら数や計算を体験し、学校での教科学習にもつなげてもらう、ユニークな教室だ。

 プログラムは、近くのスーパーで買い物するところから始まる。将来の家計管理を想定し、千円の予算で材料費と光熱費、家賃までを考えてもらう。お金の払い方を経験し、レシートを見て生活のための「数」に触れる。料理が始まると、重さを量り材料を加えるなどの過程で足し算の概念を体感。暮らす力を育みながら数や計算を学んでいくと同時に、「きっちりじゃなくても大丈夫」というあいまいさの感覚も身につける。

 料理教室は、住山さん=山科区=が主宰する団体「お金で学ぶさんすう」の事業の一つ。活動のきっかけは、生まれた息子に発達障害があったこと。成長に伴い、次第に不安を覚えた。「お金を持ってもやりくりできない子どもたちが大人になったら、どうなるのか」。世の中に就労支援はある。けれど、稼いだお金をどう使うか、障害の特性に合わせて教えてくれる場がない。聴覚障害があり、働いているが金銭感覚のない弟のサポートに苦心する母親の姿が、自分の将来と重なって見えた。

 障害のある子もお金を上手に使えて生活算数ができるように−との思いで、ファイナンシャルプランナーの資格を取得。お金を使った学習プログラムを開発し、2016年に同団体を立ち上げた。

 「お金の教育は心の教育。計算とやりくりは全くの別物で、数を学ぶと同時に心のトレーニングをしなければならない。予算という自分との約束を守れるか。予算内で買うために、必要なものと欲しいものを区別できるか」。障害があるからといって甘やかされて育つと、将来自分で生きていけなくなる。障害につけこまれたり、トラブルに巻き込まれたりするケースも後を絶たない。

 懸念しているのは、学校算数と生活算数が離れていることだ。「プラスやマイナスの記号がないだけで、また計算式の形が変わるだけで、障害のある子たちにはわからなくなる。なぜ勉強するのかという疑問にもつながる。学校算数ができれば生きていけるわけでは全くないし、暮らしの中から学ぶことがとても大切」

 お金があっても必ずしも幸せとは限らないことは、自身や家族の経験から知っている。「お金は包丁とそっくり。幸せのためのツールであるけれど、同時に、使い方を誤れば自分や人を不幸せにする」。料理教室をはじめ学校の授業、講演など年々増える活動を支えているのは、「子どもたちの未来が幸せであるように」との思いだ。

(フリーライター・小坂綾子)