ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

当事者発信の催しを力に
施設出身の若者ら支援

杉山 真智子(すぎやま まちこ)さん


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シェアハウスの若者に最近の様子を聞き取りする杉山さん(守山市)
 困難を抱える若者たちが暮らす守山市守山2丁目のシェアハウス「夢コート」。1階カフェで入居者の女性と向かい合い、杉山真智子さん(58)が語りかける。「ちゃんと寝てる? 体内時計整えていこ、将来やりたいことのためにもな。どんな人生やったら幸せなん?」。うーんと頭をひねり、女性が答える。「家で苦労した子の力になりたい。そのために起業して自分でお金生み出したい。国のお金とか待ってたら遅いし、一刻も早く救われんと後々苦しくなるから」

 夢コートは、虐待や貧困などの事情で家族と離れて暮らす児童養護施設の出身者らを支援するため2013年に開所した自立援助ホーム。認定NPO法人四つ葉のクローバーが運営し、現在20歳前後の男女7人が暮らす。法人理事長として切り盛りする杉山さんは?「福祉のふの字も知らんおばちゃんが『ほっとけへん』だけで飛び込んで、えらいもんやってしもたって気持ち」と笑う。「そんな素人の私をほっとけへんって、スタッフや専門職や若者が支えてくれているんです」

 子育てが落ち着いた9年前から児童養護施設にボランティアに通う中で、ある男の子に「おばちゃんから生まれたかった」と泣かれ、どうすることもできず「ごめん」しか言えなかった。知識も資格もなかったが、「みんなのお母ちゃんになろう」と一念発起。

 「施設出たらおいで。待ってるで」と言える大きな家を作ると決めた。

 母親が自殺、父親不明、ルーツもわからない、愛された実感がない。そんな子もいる。「子は親の宝物で、愛されて叱られて許されて、大事にしてもらって精神的に自立する。そこがないがしろで頑張れるわけない。だから育て直しをする」。虐待された子の脳の記憶は簡単に戻ることを知った。猫かわいがりでない自立支援は容易ではない。だが、サポーターとなっている卒業生の言葉に励まされる。「ここがあってよかった。出てわかる。ここを無くしたらあかん」

 大切にしている活動の一つに、当事者発信がある。年1回、音楽の演奏とともに入居者が生い立ちや大人たちに伝えたいことを自分の言葉で語る「ドリームライブ」だ。「僕らが発信しないと社会は変わらない」との思いから始まり、本年度は来年1月に草津市で開催することが決まっている。

 聴衆の前で「時々虐待のフラッシュバックに襲われることがあるけれど、誰よりも幸せになりたい」など熱く語る子、緊張で言葉に詰まってしまう子もいるが、いつも参加者は皆一心に耳を傾ける。「彼らは、生い立ちや気持ちを言語化することで頭と心を整理する。お客さんの反応を肌で感じ、虐待への問題意識を共有できたと実感し、自信に変える」。ライブは若者の成長の場であり、若者と社会をつなぐ場でもあり、また多くの人が「虐待はひとごとではない」ということを考える場だ。

 「あなたが思う良い人生を。あなたがいいと思ったらそれでいいよ」と若者たちに言葉をかけ、目の前の子が良い人生を送れるよう伴走する。そして、困った時が変われるチャンスと前を向く。「温かい心を持ち寄ることで道が開けていく。そんな時に問われるのは、資格よりも愛なんですよね」

(フリーライター・小坂綾子)