ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

実すべての子どもを笑顔に
一人芝居で全国を回る

山添 真寛(やまぞえ しんかん)さん


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人形を使い、園児たちに迫真の演技を披露する山添さん(大阪市・真生幼稚園)
 お寺の小僧の人形が右に左に動くたび、子どもたちの歓声が上がる。美しい娘が山婆に変身すると、あちこちでかわいい悲鳴が起こり、会場は熱気に包まれる。昨年11月、京都市を拠点に全国の子どもたちに笑いを届けている僧侶・山添真寛さん(50)の一人芝居「三枚のおふだ」の熱演は、大阪市内の幼稚園の園児と保護者計約150人の心を魅了した。

 山添さんは、甲賀市の浄観寺の出身。僧籍取得後東京の劇団に所属したが、後に関西に戻り、浄土宗の僧侶として再出発した。「子どもから大人まで、みんなを笑顔に」との思いで、寺の法要時や地域行事などで「浄土宗の劇団ひとり」として上演活動。京都や滋賀での活動から広がり、近年は全国から依頼が舞い込む。

 2年前からは、貧困問題の解決を目指すNPO法人「おてらおやつクラブ」(奈良市)にも、理事として参加する。同法人は、2013年の大阪市北区の母子餓死事件をきっかけに、母子家庭など経済的に困窮する家庭の子たちに寺のお供え物をお裾分けする社会福祉活動を行っている。京都や滋賀など全国約1000の寺院が登録し、子どもの貧困問題に取り組む京都市山科区のNPO法人山科醍醐こどものひろばやフードバンク滋賀などの支援団体約400団体が協力している。

 最初は、同クラブの僧侶から「募金箱を持って歩いてほしい」と頼まれ、協力。上演の際に活動を紹介し寄付を呼びかけていたが、次第に子どもの貧困の問題に関心が強まり、理事に就任した。「子どもの笑顔なくして明るい未来はない。自分なら、さまざまな事情で笑顔になれない子を含むすべての子どもに直接笑いを届けられる」との思いを強くし、同クラブの活動に上演メニューを新たに創設。人形劇と紙芝居で子どもたちを笑顔にする「おてらおやつ劇場」としてスタートさせている。

 寺院のほか、児童養護施設、幼稚園、保育園、子ども食堂などから依頼を受けて全国各地を回る。大人たちには、経済的に困窮している家庭の子どもたちが置かれている現状について説明し、「子どもを笑顔に」と理念を語ると、貧困問題に遠かった人が「自分も何かしたい」と関心を寄せてくれることもある。

 子どもたちの反応はさまざまだ。目の輝きを失っている子が「クスッ」と笑う。パーカを頭にかぶった中学生の女の子が、目を合わせてニッコリしてくれる。上演後そばに来て「僕、陸上部やってん、早かってん」と話しかけてくる子もある。

 「ストレートに笑わず、心で笑う子もいる。表面に見えなくても、子どもは大人の想像以上の思いを持っている」と感じる。だからこそ、反応が薄くても、笑いが起こらず心が折れそうになっても、最後まで本気で作品を伝える。

 「大の大人が『ド真剣』に笑いを届けようとする姿勢は必ず伝わる。笑った瞬間の心の温かみがどこかに残っていれば、その子は明日頑張れるかもしれない」。子どもたちの未来を思う大人が全力で創る舞台。それは、汗も出ればつばも飛ぶ、躍動感あふれる舞台だ。

 (フリーライター 小坂綾子)