ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

当たり前の生活 現場で模索
高次脳機能障碍者らを支援

小西川 (こにしかわ)梨紗(りさ) さん


 事故や病気による脳の損傷で、さまざまな症状が出る高次脳機能障害。約束を忘れる、臨機応変に対応できない、自分を客観視できない、欲求のコントロールが難しい−。これらの悩みを持つ当事者や家族らを支えている滋賀県高次脳機能障害支援センター(草津市)で、相談支援員としてコーディネートや心理面のケアに取り組む臨床心理士がいる。小西川梨紗さん(36)だ。


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「自分たちだけで支援するのではなく、支援機関との連携が大事」と話す小西川さん。相談室ではゆっくりと話を聞く(草津市笠山・滋賀県高次脳機能障害支援センター)
 「周囲も自分自身も障害を理解しづらく、自覚のないまま何十年も生活してきた人もいる。後天的な障害で、これまでできたことができなくなるつらさが積み重なって『死にたい』と思う人たちもあり、サポートにつなげるタイミングが重要です」。一人一人の症状を聞き取り、気持ちに寄り添いながら、代償手段やリハビリを提案し、回復への手助けをする。

 精神科に勤務するつもりで臨床心理士になったが、同センターに就職する事になり、初めて福祉の世界に触れた。「相談時間と場所が決まっていて『枠』を重視する臨床心理の世界と、24時間365日で生活の場に入っていく福祉の世界は、真逆。最初は混乱したけれど、部屋で待っているより、生活の困りごとをサポートするスタイルが自分らしい」と実感する。

 高次脳機能障害は、軽度の物忘れの人から、欲求が抑えられず何度も触法している人まで程度は幅広く、年齢も子どもから大人まで。記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害が主な症状だが、特に課題に感じているのが、行動障害が強く出るケースだ。

 感情のコントロールが難しい社会的行動障害の人たちの支援は、心理職である小西川さんに求められる大きな役割。怒鳴り散らす、イライラが抑えられない、といったケースでは、「何が嫌だったのか」「どういう気持ちの動きでそうなっているのか」、その感情が生まれるポイントを一緒に探る。「言葉のすれ違い」「言っていたことと違う」など、人によって怒りのポイントは異なる。「正義感が過剰になる人が多く、電車のマナーが悪い人に怒りに行くこともよくある」。トラブルになりそうな状況を避けてもらうようにアドバイスする。

 多重債務に陥る人、生活困窮者になってしまう人もあり、傷害や万引、恐喝、わいせつなどの触法行為に及んでしまうケースは特に深刻だ。高次脳機能障害が原因であることに本人も周りも気づかなかったケースが少なくない。

 近年は、高次脳機能障害者の社会的行動障害の対応をテーマにした厚生労働省の科学研究にも参加。その中で見えてきたのは、暴力や万引など触法のリスクがある重度の人ほど周囲の理解を得難く、受け入れ事業所も少なく、家族負担が増える現状だった。自宅で暮らしていると、近隣の理解が得られずに「24時間監視しろ」と言われ、長時間の見守りに疲弊する家族。結果、精神科に社会的入院となり、本人も家族も人生が狂ってしまう。そんな現実を憂う。

 「行動障害があっても、本人や家族が当たり前の生活を送れる環境をどう作れるか。ハード面を含めた資源を整え、日常を支えたい」。福祉にできることを模索し、支援や研究にまい進する。

 (フリーライター・小坂綾子)