ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

ちょっとした幸せ支える
障害児のための服販売

岩倉 (いわくら)絹枝(きぬえ) さん


 点滴をしたまま着替えられるパジャマ、大きいサイズまでそろったロンパースの肌着…。障害のある子や医療的ケア児のためのおしゃれな子ども服がずらりと並ぶのは、甲賀市の一軒家。2児を育てながらネットショップ「コドモフク ひよこ屋」を営む岩倉絹枝さん(42)の自宅だ。商品は約100種類。障害のある子どもたちの笑顔のためにどんな商品が必要か、常にアンテナを立て、知恵をしぼる。


写真
「コドモフク ひよこ屋」店主の岩倉さん。「ワクワク、ドキドキをたくさんの親子に届けたい」(甲賀市水口町)
 「福祉の人ですよねって、よく言われるんですけど、実はそれほど福祉を意識したことがなくて。障害がある子もない子も、かわいい服を着たらうれしいし、選べた方がいい。だから選択肢を提供する。それだけのことですね」

 開店のきっかけは、次男が6カ月の時に感染症になり、息がなくなる状態にまで悪化したことだった。回復はしたが、その後も入退院を繰り返した。当時会社員だったために子どもの入院生活との両立にも苦心し、後遺症に不安が募り、入院中は気持ちが沈む一方。病室を見渡すと、同じように苦しむ親の姿があった。ここにいるような親子が少しでも笑顔になれる仕事ができないかーと考え、退職。2012年にユニバーサルデザインの子ども服販売をスタートさせた。

 最初は、福祉の領域でビジネスをすることに批判があった。自身も迷い、「間違っているのかな」と思うこともあった。けれど、自分がやらなければ、障害のある子たちのための洋服は、誰が提供するのかーと考え、思い直した。

 ユニバーサルデザインの子ども服は、国内ではほとんど取り扱いがなく、主に海外から取り寄せる。客の要望を聞き、ニーズに合った商品を扱う。当初は月に1、2着だった販売数は、口コミで広がり、今は月に50〜100着が売れる。

 海外の商品は入荷が安定しないこともあり、独自商品の開発にも力を入れる。今月から、金融機関の支援で初めてクラウンドファンディングにも挑戦。縫製工場にも協力を得て、サンプルを作り、量産化して販売するプロジェクトを立ち上げた。商品化するのは、福祉機器展に出展した際に要望が多かった「ロンパース肌着」。100〜170センチまでのサイズ展開で、年齢を問わず障害のある子も利用できる。また、22週未満で亡くなった赤ちゃんに着せるための「エンゼルドレス」もオリジナルデザインで企画中だ。

 地道に経営を続け、新しい企画にも挑戦し、気づけば、障害のある子の生活に関心ないだろうと思っていた人や、直接関係のない人たちが、手を貸してくれていた。

 昨日まで元気だったのに、今日から障害児_。そんな経験がひとごとではなかっただけに、「健常」のもろさを実感する。「障害のある子の暮らしは、別世界の話ではない。その子たちだって、決して福祉の世界だけで生きているわけではなく、日常がある。日常のちょっとした幸せを支える、普通の子ども服屋さんでありたい」

 (フリーライター・小坂綾子)