ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

「ご近所さん」として根ざす
地域で暮らす障害者支え

宮ア (みやざき)一弥(かずや) さん


 北野天満宮にほど近い京都市上京区の「西陣会ホームきたまち」。午後4時になると、入居者が続々と帰宅し、にぎやかな時間が始まる。ここは、重度の知的障害のある6人が日常生活を送るグループホーム。それぞれに個室を持ち、スタッフの支援を受けながら暮らす。「外から見て『施設』だと思っている人もあるけれど、ここは、地域に根ざす『家』なんですよ」。所長の宮ア一弥さん(48)は、入居者たちを見守る。


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入居者との時間を楽しむ宮ア一弥さん(京都市上京区・西陣会ホームきたまち)
 運営しているのは、社会福祉法人「西陣会」。1960年に発足した団体で、宮アさんは現在、法人の事務局長も務めている。「きたまち」は、地域住民の協力によって2018年に開所した法人2カ所目のグループホームで、支援員2人と調理担当の世話人が毎日サポートに入る。入居者は日中それぞれ仕事に出かけ、ご飯やおやつの時間には共有スペースに集まる。あっという間におやつを食べて部屋に戻る人もあれば、ゆっくりくつろぎ、スタッフとのコミュニケーションを楽しむ人もある。

 「障害者が家族と離れて暮らすといえば、以前は地域と交流のない入所施設に限られていた。けれど、地域の一員として認められ、みんながご機嫌に生活できる社会って、当たり前の社会のはず」。そんな思いを強くし、高まる「居住の場」のニーズに応えるべく、西陣会のスタッフと汗を流す。

 「家」的な空間で、自立を目指すグループホーム。家族とはまた違った福祉のプロたちの関わりで、その人固有のこだわりに気づいたり、機嫌が良くなるポイントが分かったりすることもある。週末は住み慣れた自宅に帰り、バランスを取りながら日々を送ってもらい、本人も家族も落ち着くケースがほとんどだ。建物の2階部分には、ホームヘルプサービスなどを利用して1人暮らしするシェアハウスもある。集団生活が得意でない人などが入居しており、「暮らし方を選べる」ことも大切にしている。

 29歳で西陣会に入職した宮アさん。高校卒業後は、小学校の教員を目指して大学の通信教育課程で学んでいた。「ボランティアでもしよう」という軽い気持ちで、障害のある子の余暇を支える西陣会の活動に参加し、自分に親近感を抱いてくれる子どもたちと触れ合う中でやりがいを感じたのが、福祉の道に進むきっかけだった。

 働くまでは「地域」について考えたこともなかったが、今の持論は、「福祉を支えるのは地域と人」。制度だけではどうにもならないことがあるのだと実感する。スタッフと一緒に法人住所地の町内会などで活動し、消防団にも入り、住民との関係づくりを欠かさない。

 「地域地域とみんな言うけれど、交流スペースだけ作っても何も変わらないし、『地域』って、そういうことじゃない。『◯◯さん、今日も元気やね』と声をかけてくれる地域の人たちの力があってはじめて、障害のある人の生活が支えられる。地域福祉の根幹は、そういう部分にある」。目指すのは西陣会や入居社が地域の一員として身近に感じてもらうこと。「自分の存在によって、障害のある人が地域とつながれる。そんな役割も果たせればうれしい」

 (フリーライター・小坂綾子)