ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

安心して生活できる場に
「命を守る施設」運営

齋藤 (さいとう)誠一(せいいち) さん


 滋賀県日野町松尾の小高い丘に、社会福祉法人グローが運営する救護施設「ひのたに園」がある。アルコール依存、知的障害、路上生活、多重債務、DV被害者、病弱、刑務所出所者など、さまざまな人が暮らす。「自分の知らない社会で生きてきた人たちと関わる難しさと面白さ。その両方がある」。園長の齋藤誠一さん(43)は実感する。


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利用者の話に耳を傾ける齋藤誠一さん(滋賀県日野町・ひのたに園)
 救護施設は、生活保護法に規定され、主に生活に困窮し居住先がない人が福祉事務所などの「措置」に基づき入所する「命を守る施設」。施設を出た後のフォローアップも担う。利用者には重度障害の人も、いわゆる派遣切りで会社の寮を追い出された健康な人もいる。年齢は20代から90代、入所期間は3年未満と35年以上が多く、ケアの中身もかなり多様だ。

 50年前の開園当初は重度障害の人の施設が足りず、障害のある人が多かったが、ここ15年ほどは、経済の動向で仕事も住居も失った人らが増えている。「裏返せば、そういう人が安心して暮らせる制度や施策がないということ。利用者像から今の社会が見えてくる」

 小規模作業所勤務や同法人での障害のある人の芸術活動支援に携わった後、3年前に同園に赴任した。最初に感じたのは「どの支援スキルを磨けば仕事として『マル』か見えにくい」ことだった。「オムツ交換の最中に廊下でけんかが始まる。オムツを閉じてけんかを止め、再度オムツを開く、ということを、冗談じゃなくやるんですよ」。介護スキルも、人とのコミュニケーション力も求められる。

 制度的な課題もある。生活保護施設の職員配置基準は、利用者5・4人に1人。介護度に応じた配置が認められている福祉施設に比べると、施設、職員の負担は大きい。入浴は週2日といった最低基準でやれば職員の給与水準は低くない。だが、それでは「適切なケア」にはならない。職員の加配や施設の充実、なかでも利用者が他人からの刺激を受けず過ごせる個室の必要性を感じている。

 職員を守るのも重要な仕事だ。利用者のために全力で、という考えがここに来て変わった。「例えば前日まで笑ってた人が突然失踪した時、ケアの本質でいえば担当者に理由を考えさせるべきかもしれない。だけど、ギリギリまで突き詰めれば、ひょっとすると支援する側の心が壊れてしまうのではと思える。『しゃーない、次行こう』と、気持ちを切り替えなきゃいけない時もある」

 大変な一方、やりがいもある。入所当時は荒れていた人が「世話になったな」と言い残し、自立に向けてアパートへ移る。病気で歩行器を手放せなかった人が、運動会で皆に応援され、自ら歩行器を退け走りだす。「孤独は人から生きるエネルギーを奪うが、場があることで人は輝ける」と実感する。

 「救護施設は、自分の知らない社会で生きてきた人たち同士をつなげてくれる」。そこにも魅力を感じている。疲れた時は、ベンチに座って利用者の話を聞く。「つらかった頃の話の後に『園長も大変やろ』と言われると、力をもらって、逃げたいと思っていた仕事とも向き合える。支え合ってるなって、思いますね」

 (フリーライター・小坂綾子)