京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●この人と話そう
超高齢社会支えるインフラめざす |
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けいはんな学研都市の一角にある知能ロボティクス研究所で(写真・遠藤基成) |
《ロボットというと鉄腕アトムを連想しますが、萩田さんたちが世界に先駆けて発想し、研究を進めるのはネットワークロボットというのですね》
高齢になれば人は、いろんな面で機能が低下するのは避けられませんので、低下を補い自立生活を支える社会インフラが不可欠になると思っています。
重い物を持ちあげるロボットも必要ですが、どんどん増える一人暮らしのお年寄りが互いにコミュニケーションする、買い物やサービスなど欲しいものを手に入れる、自分の健康状態や日常の安全をチェックできる、さまざまな能力を持つロボットやシステムをネットワークでつなぎ、個人が使えるようにする。それがネットワークロボットです。
サービスといえば、「いつでも、どこでも、だれでも」の、「でもでも」サービスを考えますが、高齢者や障害のある人は、一人一人が抱える困難が違うなどすごく多様なのです。ネットワークロボットは、「ここだけ、あなただけ、いまだけ」という、「だけだけ」サービスの実現を目指します。
《ロボットをつなぐネットワークが重要になりそうですが、何でつながることになるのですか》
ケータイです。今年末から来年にかけて、ケータイの通信速度が固定の光ファイバーによる高速ブロードバンド回線なみになる新サービスが始まります。加えて「定額制」の普及で、高速通信でつなぎっ放しにできる環境が整ってくるはずです。
そうなれば、その人がどこに居ようとどこに出かけようといつもネットワークロボットにつながっていることができるようになります。
《「だけだけ」サービスの実現ということは、ネットワークロボットは私の好みや希望、行動パターンなどをよく知っているということですか》
日常のいろんな生活シーンでの行動や会話内容などの蓄積し、インターネット上の知識情報と連携させて、状況に応じたサービスが提供できるようにします。ロボットだけでは不十分なところは、遠隔地にいるオペレーターがロボットをサポートして、動きを助けます。その人にとって生き字引のパートナーのような存在にしたいのです。
人と直接コミュニケーションするかわいいロボットだけでなく、家全体、地域社会全体がその人を理解しサポートする大きな意味でのロボットになるイメージです。
《ネットワークロボットの実用化に向けて、いろいろな実証実験が行われているようですね》
利用者がまず携帯端末でロボットと一緒に買い物メモをつくり、ショッピングセンターへ出向くと、利用者が自動的に感知されて手助けするロボットがお出迎え、買い物メモをもとにお買い得情報などについて会話しながら買い物をする実験をしました。自宅から店舗内まで切れ目なくサポートするわけです。
遠隔地に居る高齢者同士がテレビ会議システムを使って対話することも行いました。会話が途切れたりするとそばにいるロボットが相づちをうって会話が続くように助けるのです。遠隔地にいる傾聴ボランティアとデイサービスセンターの高齢者を結んで話をじっくり聞くこともできます。
脈拍や血圧などの健康状態を示す情報をネットワークロボットが常時チェックし異常があれば医療機関に連絡して病気やアクシデントを未然に防ぐことも可能でしょう。
《まだ夢物語のような気もするのですが、萩田さんの感じではいつごろそのような時代が来るのでしょう》
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はぎた のりひろ
1954年生まれ。高校時代に物がゆがんで見える病気になり、1日おきに撮られる眼底写真を見るうちに、視神経に興味を持ったという。見ることなど人間の認識へと興味は広がり、コンピューターと人のコミュニケーション研究へ。1978年慶応大学大学院で修士課程を修了、NTTコミュニケション科学基礎研究所などを経て、2002年から精華町にある国際電気通信基礎技術研究所(ATR)知能ロボティクス研究所長。